イギリス映画「ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男」

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2017年のイギリス映画「ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男(Darkest Hour ジョー・ライト監督)は、対独戦を主導した英首相チャーチルの決定的な日々を描いた映画。イギリスではいまでも、チャーチルはイギリスをナチの暴虐から救った政治家として、なかば神格化されているが、この映画はそんなチャーチル像を上書きするものだ。自国民にこんなに敬意を表されては、チャーチルも本望であろう。日本では、戦争指導者が敬意を表されることはほとんどないので、奇異な気がしないでもない。

映画は、チェンバレンの失墜をうけてチャーチルが首相の座に就き、ナチスの攻勢をしのいで、ダンケルクでの英兵の救出に成功するまでを描く。その短い期間(1940年5月9日から6月4日までの一か月たらず)、チャーチルは議会内で孤立し、ヒトラーとの融和に傾く議会主流派と闘いながら、己の信念を固持し、イギリスを戦争に向かって鼓舞する。その様子を、微視的な視点から映画は追うのである。

見どころは、チャーチルの政治家としてのゆるぎない信念の現れたところだろう。その信念があればこそ、孤立無援のなかでも自己を見失わず、イギリス国民を戦争に向けて導いて行けた。そんなふうに伝わってくる。この映画では、イギリスがナチスと闘うのは当然のことであって、それに反対した融和派は腰抜けどもであり、徹底抗戦を叫んだチャーチルが正しかったという前提に立っているように見える。そういう前提は、無論後付けの理屈であって、チャーチルが正しいとされたのは、歴史の動きがかれに有利に働いたからにほかならない。もっとも、そんなことはわかりきったことなので、人間というのは、自ら直面した状況にどう対応するか、についてたえず決断を迫られ続けるものなのである。

当時の国王ジョージ六世が、かなり重要な役割を果たしている。ジョージ六世は、当初は融和派の連中を支持していたのだが、そのうちチャーチル支持に変わった。理由はわからないが、ともあれ国王の支持がチャーチルには追い風となって、政敵との戦いを有利にしたというふうに伝わってくる。

ジョージ六世といえば、対独戦線布告(1939年9月3日)にさしいて、国民に向けて戦争演説を行ったことがよく知られている。そのことについては、2010年のイギリス映画「英国王のスピーチ」がテーマにしたところだ。この「チャーチル」では、国王のスピーチのシーンは出てこず、かわってチャーチルが国民に向かって戦争演説をするのである。





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