韓国映画「息もできない」:やくざ者と不良女子高生

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2008年の韓国映画「息もできない(ヤン・イクチュン監督)」は、やくざ者と不良女子高生との不思議な関係を描いた作品。二人とも破綻した家族を背負っている。その家族の破綻が、男をやくざ者にし、女を不良にしたというわけだ。そんな二人がどういうわけか、互いにひかれるものを感じる。それは当初は友情のようなものだが、次第に恋愛の感情へと高まっていく。だがその恋愛が実を結ばぬ前に、男が殺され、二人は引き裂かれるというような内容だ。

やくざ者と不良少女の組み合わせというのが意外性を感じさせ、国際的に高い評価を呼んだ。やくざ者を賛美する傾向は日本にもあり、やくざの恋というのも、日本映画の一つの売りになっていたものだが、この映画の中のやくざ者と比較すると、日本のやくざ者は単純なのが多く、性格も比較的素直である。この映画の中のやくざ者、つまり韓国のやくざ者はやたら複雑な性格で、凶暴性も生半可ではない。その凶暴性は、崩壊した家族関係に育まれたというふうに感じさせるように作られている。この映画の中のやくざ者と不良女子高生は、壊れた家族関係、それは韓国社会が不可避的に生んだものなのだが、そうした韓国社会の矛盾の産物として、描かれているのである。

主人公はやくざ組織に属する青年サンフン。これは監督のヤン・イクソン自ら演じている。韓国のやくざ組織は、日本のやくざ組織ほど規模は大きくなく、仕事の範囲も、借金の取り立てとか企業の手下のような、せせこましいものだ。小規模な集団だから、人間関係が濃密かといえば、そうでもなかったりする。その人間関係のドライさが、やくざ同士の殺し合いをもたらしたりするのである。じっさいこの映画の主人公は、弟分に憎まれて殺されてしまうのである。

そのサンフンの相手となるのが、不良女子高生のヨニ。彼女は父親と弟と三人で暮らしているが、互いの関係はよくない。父親は酒浸りで、弟は遊びの金を無心するばかり。しかも父親は錯乱して娘を殺そうとする。そんな家族関係にうんざりした彼女は、サンフンによって心を慰めてもらいたいと思うのだ。

サンフンのほうは、父親が刑務所から出てきたばかり。父親は妻を殺害した罪で刑務所に入れられていたのだ。その父親をサンフンは憎んでいる。殺したいと思うほどである。一方、女子高生のヨニに対しては、子どもを相手にするような感覚でいる。サンフンには姉がいて、その子ども、つまり甥を可愛がっている。サンフンは日頃すさんだ日々を送っているのだが、甥やヨニと一緒にいる時間が、かれにとっては大事なものになっていく。その大事なものを失いたくないと思い、かれはやくざ稼業から身を洗おうと決意する。だがいったんやくざの道に踏み込んだものは、そこからは出られない。かれはやくざ仲間に加わったヨニの弟によって殺されてしまうのだ。

映画の見どころは暴力にあるとばかり、とにかく暴力シーンの多い映画である。その暴力というのが、人間の身体同士のぶつかりあいという形をとっており、したがって人間臭さを感じさせる暴力である。日本のやくざ映画では、飛び道具とか日本刀が使われるが、韓国ではハンマーで頭をかち割るといった具合の原始的な暴力が受けるらしい。






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