ハーバード大学学長辞任事件から考える

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ハーバード大学の学長辞任騒動について、これは米国内での親イスラエル勢力の圧力によるものと、小生などは思っていたが、実はもっと複雑な事情があるらしい。その事情の一端を、雑誌「世界」の最新号(2024年4月号)に寄せられた一文が解き明かしている。「大学不信と多様性へのバックラッシュ」と題されたこの小文(林香里)は、米国内における保守派による大学の多様性へのバックラッシュがこの事件の真の要因であり、反ユダヤ主義云々という保守派の主張は、多様性への敵対を糊塗する言い訳のようなものだというのである。

近年米国の保守派の間では、アファーマティヴアクションをはじめとする大学の多様性重視の政策(DEIと称される)に反対する動きが広がっている。多様性の重視と称して、白人の利益が阻害されていることに反対しているということらしい。だがそのことを理由に大学叩きをするわけには、さすがにいかない。そこで今回は、ハーバード大学の学長らがハマスの行動を非難しなかったことを理由に、かれらを反ユダヤ主義と結びつけ、そのことで財政的な圧力を動員し、ついには辞任にいたらしめた。この事態を林は、「保守派によって、反ユダヤ主義とDEIとがあたかも対抗関係、二者択一の関係にあるかのようにすり替えられ、大学介入の口実に使われてしまった」と言っている。

今回辞任したハーバード大学のゲイ学長が黒人だったということも事態を複雑に見せている。「ゲイ学長は黒人だから選ばれたのではないかと、学長としての資質にも疑問を投げかけた」投資家もいた。ハーバードに限らず、アメリカの有力大学は億万長者たちの寄付金に依存するところが大きいので、かれらから金をやらぬと言われるのは、相当に応えるのである。

林が言うには、「いま、米国では、『DEIを推進することが、学術の卓越を阻害する』といった反動的言説が、政治家と資産家、そしてさらに広く一般世論の中でじわりと広がっているのだそうだ。今回のハーバード大学学長辞任事件は、そうした流れの中でおきたことで、親イスラエル勢力だけの仕業ではないということらしい。





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