ロシア映画「エルミタージュ幻想」 全編ワンカット

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アレクサンドル・ソクーロフの2002年の映画「エルミタージュ幻想(Русский ковчег)」は、エルミタージュ博物館を舞台にした幻想的な作品。90分ほどの長さだが、全編がワンカットで作られており、映画史上はじめての試みだとして、大いに話題になった。ワンカットといっても、シーンはかわる。カメラの動きにあわせて、様々な人が登場する仕掛けになっている。その登場人物というのが、最初は現代のロシア人だが、そのうち昔のロシア人が出てきて、時間を超越した騒ぎになる。そこが幻想的だという所以である。

主人公は、ナポレオン時代に生きていたフランスの外交官である。この外交官は、エルミタージュが冬の宮殿だったころに訪れたことがあると言っている。その彼を、現代のロシア人がエルミタージュに案内する。このロシア人は、主人公の案内人であり、かつ映画のナレーターでもある。彼自身が画面に登場することはない。

エルミタージュに案内された主人公は、いまの時代を生きているロシア人たちと会話する。さまざまな展示室を次々と尋ねながら、絵画を批評したり、見物人との会話を楽しんだりする。そのうち、閉館時間が近づいてきて、退去を迫られたりする。それにめげず、館内を逍遙しているうち、昔の時代のロシア人が現れるようになる。エカチェリーナ女帝と女官達とか、ペルシャの使節団を謁見するロシア皇帝とか、巨大ホールで催される18世紀の宮殿のパーティとか、さまざまなシーンが展開される。無論ワンカットのなかでのことである。

18世紀の末にフランス革命がおこり、国民公会が権力をもったということが話題になると、案内人は、20世紀のロシアでも国民公会が八十年存在しましたと言う。外交官は過去の人であるから、ロシア革命のことは知らないのである。

カメラは建物の内部を静かに移動していき、とりわけ廊下を通る際には、かなり長い距離が写される。その様子がバチカン宮殿の内部を想起させる。じっさい主人公も、ここはバチカンに似ているというのである。






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