ハンガリー映画「この世界に残されて」 ホロコーストを生き延びたものの心の傷

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2019年のハンガリー映画「この世界に残されて バルナバーシュ・トート監督」は、ハンガリーにおけるホロコーストを生き延びたものの心の傷をテーマにした作品。ホロコーストをテーマにしたハンガリー映画としては、「サウルの息子」が有名だ。「サウルの息子」は、強制収容所におけるユダヤ人の苦悩を直接的なタッチで描いていたが、こちらは、戦後まで生き残ったものの心の傷に焦点を当てている。とはいっても、その傷は遠回しに表現されるばかりで、ずばりと示されるわけではない。

映画の舞台は1948年のハンガリーの都市。おそらくブタペストだと思う。そこの病院に中年の医師が務めており、その医師の治療を一人の少女が受けにくる。彼女は16歳になるのに、まだ初潮がないというのだ。医師は二次性徴の現れが遅れているのだと診察するが、なぜ遅れているのかは明かさない。そんな医師に、少女は大きな関心をもち、自分から積極的に近づいてくる。少女は医師に自分と同じなにかを感じとったようなのだ。

かくして少女と医師が親密な関係を築いていく。そのなかで、医師は妻子を失ったこと、少女は両親を失ったことを明かす。だがどんなふうに失ったかについては明らかにしない。彼らがユダヤ人だというメッセージはないのだが、なんとなくかれらがホロコーストの犠牲者だと感じさせるように映画は作られている。

そんなわけで、非常にわかりにくいところのある映画だ。結局、医師は別の女性と再婚し、少女もやがて恋をして結婚する。だからハッピーエンドになっているのであるが、この種の映画にハッピーエンドがふさわしいかどうかは、また別の問題であろう。

ハンガリーでは、ホロコーストの犠牲になったユダヤ人が56万人にのぼるというから、その問題にいつまでもこだわらざるをえないのであろう。





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