サミュエル・バトラーの風刺詩「ヒューディブラス」への挿絵:ウィリアム・ホガースの版画

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ウィリアム・ホガースの版画作家としての最初の本格的な作品は、サミュエル・バトラーの風刺詩「ヒューディブラス」への挿絵である。この風刺詩が出版されたのは1662年、ホガースがそれに挿絵を加えたのは1725年のことであるから、重版に挿絵をつけたということになり、したがってこの風刺詩が長い間ベストセラーであったことを物語っている。ベストセラーに挿絵をつけるのであるから、ホガースとしては、成功のチャンスだと受け取る理由があったわけである。

原作のテーマは、ピューリタンへの痛烈な風刺である。ピューリタン革命は、国王チャールズ一世の首をちょんぎったあと、クロムウェルの独裁があったりして、民心が離れていき、1660年にはチャールズ二世による王政復古が実現した。サミュエル・バトラーは、王党寄りの立場からピューリタンを痛烈に批判したので、チャールズ二世に大いに褒められた。ヒューディブラスというのは、ピューリタン精神を体現した騎士のような人物で、セルバンテスの「ドン・キホーテ」にインスピレーションを受けたといわれている。

ウィリアム・ホガースは、そんなバトラーの「ヒューディブラス」に挿絵をつけたわけで、彼自身、ピューリタンとは一線を画す態度をとっていたらしい。ホガースがこの挿絵をつけた1725年ごろには、イギリスの政治は、トーリーとホイッグの二大政党の対立の時代を迎えていた。どちらかというと、ホイッグのほうが優勢だった。ホイッグは色々な面で改革的だったので、保守的なホイッグとはするどく対立した。

ホガース自身は、トーリー的な気質の持ち主だったので、ピューリタンとかその精神的後継者と目されたホイッグには批判的だったようだ。

挿絵は12点からなる。上の絵は、扉絵というべきもの。「口絵&作者の序言( Frontispiece & His Explanation)」と題されている。上部の丸枠の中に描かれているのが作者のサミュエル・バトラー。この時バトラーはすでに死んでいるので、ホガースは特別の手がかりによってこの肖像をものにしたのであろう。

肖像の枠を支える台の手前ではプットが台前面の壁に彫刻を施している。プットの左横にはサテュロスがいて、プットにバトラーの本のページを見せている。これをよく読んで、イメージを浮かべろというのであろう。台の右わきには、イギリスの守護女神ブリタニアが、鏡にうつった自分の顔に見とれている。台の前面の壁には、馬車に乗ったサテュロスが描かれている。かれは後ろを振り返って見つめているのは、偽善、反逆、無知のシンボルである。

画面の左手奥に見えるのは、バトラーの墓である。墓の前には「時の父」がひざまずいている。







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