劣化したリーダーがなぜ増えたのか

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雑誌「世界」の最新号(2023年11月号)が、「劣化したリーダーはなぜ増えたのか?」と題して、辻野晃一郎と立石泰則の対談を掲載している。辻野はソニー出身の実業家、立石は実業界を取材するジャーナリストだそうだ。それぞれの立場から、今の日本のリーダーの劣化ぶりを指摘している。どちらも実業界とその周辺に身を置いているから、勢い実業界のリーダーを話題に取り上げる。かれらによれば、実業界のリーダーの劣化は、なににもまして日本の劣化ぶりを物語っているということらしい。

辻野は、ソニーにいた時の経験に基づいて、実業界のリーダーたちの劣化ぶりを指摘している。近年のソニーのトップは、辻野によれば、技術革新への理解が全くない。そのため他の先進国に技術をめぐって遅れをとっている。ソニーだけではなく、松下をはじめほかの大企業にも同じことが言える。その指摘を受けて立石は、「原因は社内に自由に発言できる雰囲気がない、自由な社風を失ってしまったからです」とフォローしている。

社員がものを言わない、ものが言いにくい、というのは今の日本企業に共通する病弊で、そこからトップが節度を失って、権力を乱用するようになる。マスメディアも含め、「ものいえば唇寒し」という雰囲気があるために、社内の自由な気風はそこなわれ、トップが迷走する。辻野は自分の体験に基づいてそう言っているので、説得力がある。それは、「日本では、組織の中でおとなしくしてぶらさがることを選択する人たちが多い」ことに原因があるので、ただにリーダーだけの責任ではないということらしい。組織全体がそんなふうだから、技術革新(イノベーション)などおこりようがないというわけだ。

実業界のこうした風土は、ほかの組織にも指摘できる。たとえば、政治家や官僚組織に身をおいている人たちだ。いまの政治家や官僚たちには、未来へのビジョンが全くないし、当面の課題に対しても適切に対応することができない。そのいい例として辻野は例のマイナ騒ぎをあげている。これは、「行政の都合や思惑ばかりの一方通行が先行していて、国民を統制する一つの手段として一生懸命広めようとしているだけにしか」見えない。「国民にとって何がメリットかは政府には全く関心がない」。だからこんなことになる、というのである。

その指摘を受けて立石は、紙の保険証をマイナに切り替える動きを批判する。現行の保険証システムがそれ自体として問題なく動いていることを指摘したうえで、「住民にとって安全で便利なシステムが紙の保険証で完成しているのに、わざわざ問題ばかり起こしているマイナンバー保険証に強制的に変更させるとする意味がわかりません」と言うのである。その原因として立石は、「仕掛けている側がなぜデジタル化しなければいけないかをきちんと理解していない」からだと言う。たしかにその通りだと思う。そんなふううになってしまうのは、政治家が無能になり、官僚たちが無責任になったことが原因ではないか、と小生などは思っている。

劣化したリーダーが停滞させた組織を立て直すには、リーダー選出の仕方を変える必要があると立石は提案する。立石は、佐高信の社長公選論を引き合いに出して、課長クラスから公選制を導入すべきだという。その理由として、「一緒に働いている職場や現場の人たちこそ、誰がリーダーに相応しいかを一番よく知っている」からだと言う。

対談の最後のところで辻野は、「逆ルサンチマン現象というか、強者の側に立つ冷笑系みたいな人が社会的弱者を攻撃するような傾向が、ネットやテレビの世界で広まっている」ことに憂慮を示している。これは劣化したリーダーが、自分の地位にあぐらをかき、組織や社会のことについて無感覚になっていることと通じ合うのではないか、と言いたいようである。





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