往年の人気歌手とデュエットを楽しむ

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四方山話の会の幹事団四人が久しぶりに集まって大阪旅行の相談をした。場所は四谷曙橋の中華料理店峨眉山。この店名は、李白の有名な詩「峨眉山月半輪 秋 影入平羌江水流」からとったもので、無論四川料理を食わせる。今日はその四川料理のフルコースを食いながら、大阪旅行を企画したのだった。十二月の前半をめどに、二泊三日で市内の穴場をめぐり歩き、土地のうまいものを食おうということになった。ついては清子など、関西在住の仲間にも声をかけて、一緒に飲もうということにもなった。

乾杯をしながらまず話題になったのは、この夏の異常な暑さだ。なにしろ十月に入っても真夏日が続く、こんなことは七十五年間生きてきたうちで初めてのことだ、と小生が言うと、いや来年はもっと暑くなるかもしれないし、再来年はさらに暑くなるかもしれない、この調子だと、沸騰を通り超えて蒸発ということになりかねぬ、と皆が言う。たしかに近いうちに地球は蒸発してしまうかもしれないね、この分だと人類は亡びるだろう。人類がいわゆる人間らしい生き方を始めてからまだ一万年しかたっていない。四十三億年の地球の歴史からすれば、ほんの一瞬のことだ。その一瞬の間に人類は滅亡する可能性が極めて高い。恐竜が滅亡するまでは数千万年かかったわけだから、人類は恐竜よりも短い時間しか我が世を謳歌できなかったわけだ。そう小生が言うと、我々が生きている間は、まだ滅亡することはあるまいね、と皆が心配そうな顔をするから、いや地球が壊れるまえに人間同士が殺しあって滅亡する可能性もある。その可能性は我々が生きている間に実現するかもしれないね。なにしろウクライナとかパレスチナとか、方々で人間同士の殺し合いが始まっている。人間とは実に愚かな生き物だよ。

地球のことを心配しだしたらキリがないから、話題をもっと卑近なことに移し、岸田政権の相変わらずの無能ぶりとか、その結果国民が途端の苦しみをなめさせられていることとか、円安のおかげで日本が外国人に買い占められ、日本人は近くの温泉地に旅行することも儘ならなくなったというような嘆き節のような話に花が咲いた。年をとるとどうも、人間は悲観的になるようだ。中には楽観的な老人もいるようだが。

ところで、身体の具合はどうかね、と誰からともなく話題が健康の方面へと向く。石子は駅の階段を上り下りすると息切れがしてなさけなくなるというので、小生もやはり息切れが激しくなったと同調する。岩子は、例の夜警の仕事のほかに週三回テニスをやっているので、足腰はしっかりしているし、息切れとは無縁な生活を送っているそうだ。たしかに顔色がいいし、腕も大根なみに太い。浦子は夜ごと宴会に出かけるので、結構歩いているそうだ。だが今年の夏はあまりの暑さで、宴会に出かける気にもならず、家に閉じこもっていたそうだ。

フルコースとあって、料理のボリュームが半端じゃない。小生は半分食い残してしまった。そこで浦子が女将に命じて、仕上がりの麻婆炒飯を土産用に包んでもらった。

いつものとおり例のガウチョおじさんの店に移る。石子は身体の調子が良くないといって辞退したので、残りの三人で寄った。我々が入った時には、他に客がいなかったが、そのうち老人の集団が入ってきた。平均年齢が八十歳というので、われわれより多少先輩格である。女二人と男二人で構成されており、七十九歳という女性が浦子とは顔なじみだという。だから最初から打ちとけた関係になり、さる老人が、我々が早稲田の出身だと聞くと、さも親しみのある雰囲気で話しかけてきた。老人自身は明治の出身で、ラグビーの早明戦に熱中していたのだそうだ。われわれはこの老人にとって良きライバルということらしい。

折角お近づきになったのだから、是非カラオケ合戦をしましょうということになった。まず、八十何歳かという老人が、美声を披露した。声が澄んでいてしかもよく通るのである。次は我々グループの番だというので、まずお前が歌えといわれ、小生が拓郎の「旅の宿」を歌った。いきなりのことなので声が出ない。ひきつったような歌い方になって、あるいは坐をしらけさせたかもしれない。

小生に続き、向こうのグループから、浦子の顔見知りの女性が歌った。この女性は七十九歳になるそうだが、年齢を全く感じさせない。容貌は若く見えるし、服装もシックである。どう見ても役立たずの老婆とは見えず、有閑マダムふうである。もう一人の女性は、かつて人気歌手としてならした人で、かりにT女子と呼んでおこう。この人はマヒナスターズなどとコンビを組んだり、テレビ番組の司会をやったりしていたので、結構名を知られているはずだ。六十歳を過ぎて早稲田の大学院に学んだというから、知性的でもあるのだろう。

小生は、多少の興味を覚えて、是非彼女の歌を聴きたいと浦子に催促したところ、浦子は策を弄して、彼女と岩子のデュエットをお膳立てした。岩子は気持ちよさそうに歌っていたし、彼女のほうもうれしそうな表情をしている。そこで多少悋気を感じた小生は、お前にはスケコマシの才能があるようだな、と岩子に言ってやった。

カラオケの順番が一巡して、二巡目に入ったところで、また歌えと急き立てられ、シャンソンを歌った。イヴ・モンタンの「枯葉」をフランス語で歌ったのである。するとセリフの部分を終えてメロディの部分に入ったところで、T女子が小生の傍らに出でたち、一緒に歌ってくれたのだった。小生はすっかりうれしくなり、例の Mais la vie sépare ceux qui s'aiment,Tout doucement, sans faire de bruit のくだりでは、大いにこぶしをきかせたのであった。するとT女子もこぶしをきかせ、絶妙なデュエットとはなった次第。小生はプロの歌手とデュエットが楽しめて大いに愉快な気分になったのだった。

こんな次第で、今宵は得をした気分になれた。得をしたついでに、帰宅の土産を家人に差し出したところ、滅多にないことなので、喜んでいた。






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