美を読む

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聖ゲオルギウスは、古代ローマ時代の殉教者として知られる。その生涯は謎が多い。だいいち、どこで活躍していたかが明確でない。東ヨーロッパからグルジアにかけて、かれを主人公とする伝説が流布されている。一番有名なのは、グルジアにおけるドラゴン退治の伝説で、これは「黄金伝説」にも出てくる。ルドンはおそらく黄金伝説を踏まえてこの作品を描いたのだと思う。

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晩年のルドンは、花瓶にいけた花を好んで描くとともに、花をあしらった女性の肖像も多く描いた。「ヴィオレット・エーマン(Violette Heyman)」はその代表的なものである。若い女性が横顔を見せた姿で、花と向き合っている構図である。

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「アポロンの馬車と竜(Le char d'Apollon et le dragon)」と題されたこの作品は、「アポロンの馬車」とほとんど同じ構図である。ほぼ同時期に制作された。構図の違いは、画面の下側に竜を配したところ。もっとも竜は、胴体の一部がかいまみえるだけで、全体像が明確ではない。

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「出現(Apparition)」と題されたこの作品は、ボナールらナビ派とのかかわりを示すものと言われる。ボナールは、ナビ派の中心人物として、幻想的な画風の作品で知られている。ルドンの幻想的な画風に影響を受けたとされるが、ルドンはルドンで、ボナールらナビ派の動きに注目していたらしい。

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ルドンは、晩年には花を好んで描く一方、蝶をモチーフにした作品を多く手掛けた。その大部分は、沢山の蝶が思い思いに飛び回っている様子を描いたものだ。この作品は、その代表的なもの。露出した岩肌の上を、大小さまざまの種類の蝶が飛び回るところを捉えた。

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アポロンは、ギリシャ神話の太陽神である。太陽が東の空から出て天空を移動し、やがて西の空に沈んでいく様子を、ギリシャ神話では、アポロンが四頭立ての馬車に乗って天空を駆けるイメージで表現した。「アポロンの馬車(Le char d' Apollon)」と題されたこの作品は、そうしたギリシャ神話のイメージをあらわしたものである。

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ルドンは、シェイクスピア劇の有名なキャラクター、オフェリアをモチーフにした作品をいくつか作っている。その中には、水に浮かんで流される、よく知られたイメージのものもある。「花の中のオフェリア(Ophelia parmi les fleurs)」と題されたこの絵は、花の中というよりは、花を前にしてそれを見上げる姿のオフェリアを描いたものだ。

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ペガサスは、ギリシャ神話に出てくる翼をもった天馬である。空高く飛翔するイメージで描かれることが多い。そのペガサスをルドンは繰り返し描いている。すでに石版画にも取り上げていたが、石版画のペガサスは黒く暗いイメージをひきずり、地上を這う姿で描かれていた。

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ルドンがポール・ゴーギャンと出会ったのは、1886年の第八回印象派展の会場であったらしい。八歳年下のゴーギャンのほうから、ルドンに敬意を表して接近したといわれる。ゴーギャンはルドンの画風に強くひかれ、その幻想的な雰囲気とか、豊かな色彩に影響されたようである。

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ルドンは仏陀に強い関心を持っていたようで、仏陀をモチーフにした作品を結構作っている。いづれも仏陀の精神性を表現したもので、カラフルな色彩のなかに、静かな瞑想のような雰囲気を漂わせている。

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レオナルド・ダ・ヴィンチは、いまでこそ世界絵画史上の巨匠ということになっているが、その評価が確立したのは20世紀のことである。そうしたダ・ヴィンチ評価の動きに、ルドンも深くかかわっていた。「レオナルド・ダ・ヴィンチ頌(Hommage à Leonardo da Vinci)」と題されたこの作品は、そんなルドンのダ・ヴィンチへの敬愛を表現したものである。

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カリバンは、シェイクスピアのロマンス劇「テンペスト」に出てくるキャラクターである。「野蛮で奇形の奴隷」と紹介されており、また登場人物の口をとおして「魚と怪物のあいの子」と呼ばれ、具体的なイメージとしては、頭は魚で、鰭が手足のように伸び出ている。ヒエロニムス・ボスの奇妙な作品「干草車」に描かれている魚の怪物に近いイメージだ。

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キュクロプスはギリシャ神話に出てくる単眼の巨人族。火山ないし鍛冶屋の神といわれるが、ホメロスの「オデュッセイア」には旅人を食らう凶暴な怪物として描かれている。ルドンのこの作品は、キュクロプス族の一人ポリュメーモスが、ガラテーアという娘に恋い焦がれるさまを描いている。

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「セーラーカラーをつけたアリ・ルドンの肖像(Portrait d'Arï Redon au col marin)」は、ルドンの次男アリをモデルにした作品、ルドンは、長男のジャンを1886年になくし、深い悲しみにとらわれたのだったが、1889年に、50歳を前にして次男を得た。この子を得たことで、一時衰えた創作意欲が復活したという。

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一時期のルドンは、聖書に取材した宗教的なテーマを描いた。「聖心(Sacré-Cœur)」と題するこの絵もその一つ。キリストのイメージをストレートに表現している。キリストをモチーフにした作品には、受難とか悲しみといったものを表現するものが多いのだが、この作品は、タイトルにあるとおり、キリストの心を表現している。

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ルドンは、1880年代の半ばごろに、本格的な油彩画の制作に励むようになった。石版画の制作もやめたわけではない。1890年代半ばごろまで石版画の制作を続けている。だが主力は次第に油彩画のほうに注がれるようになった。「アベルとカイン」と題されたこの作品は、かれの本格的な油彩画の初期の傑作である。

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(おそらく花の中に最初の資格が試みられた)

「起源(Les origines 1883年)」はルドンの三番目の石版画集で、八点の作品で構成されている。豚の怪物が暗闇の中で目覚めるといった構図の作品からはじまる。目覚めは誕生、つまり生命の起源の隠喩だろう。以下いづれも、何らかの形で「起源」をテーマにしていると受け取れる。

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(孵化)

ルドンは、石版画家として世間に現れた。最初の石版画集「夢の中で」を刊行したのは39歳の時だから、画家としてのスタートは遅かったといえる。それまでは、つまり若いころは、あまりさえない風景画を描いており、ほとんど注目されることはなかった。ルドンに石版画の手ほどきをしたのは、風変わりな浪漫派芸術家ブレダンである。この男はシャンフルーリの小説「犬っころ」のモデルになったことでも知られる。画家としては、ロマン派に属し、古典的な絵画ではなく、激情的な雰囲気を感じさせる画風である。ルドンは、技術のみならず、画風もブレダンから学んだようである。


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「ビスマルク氏の悪夢(Un couchemar de M.Bismarck)」と題されたこの作品は、普仏戦争に触発されて制作したもの。この戦争で、フランスは初戦で健闘したものの、たちまち攻め込まれ、ルイ・ナポレオンが捕虜になるという不名誉な結果となった。そのことで、ナポレオンの第二帝政は崩壊する。

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「わしは鳥じゃ(Je suis oiseau, voyez mes ailes. Je suis souris, vivent les rats.)」と題されたこの石版画は、当時の王党派の大物エミール・オリヴィエを風刺した作品。オリヴィエは、二月革命の頃は共和主義者だったが、のちに熱心なナポレオン主義者に転向した。転向後のかれはナポレオンの懐刀になり、普仏戦争に向かって国民をかりたてた。

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