美を読む

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レンブラントは息子ティトゥスの肖像画を、子どもの頃から何枚も描いた。これは1656年のもの。この時のティトゥスは15歳だった。絵の中のかれの表情は落ち着いており、ずっと年上に見える。このティトゥスの為にサスキアが残した遺産を、レンブラントは本人に渡してやろうとして、豪邸の所有権をティトゥス名義にしたいと思ったのだったが、裁判所はそれをみとめず、残った財産のうちのわずかな部分しか渡してやることができなかった。レンブラント自身の割り当ては、借金返済のために競売に付されてしまったのである。その際に、手元に保有していた自分の作品の多くも流出した。

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レンブラントが「トゥルプ博士の解剖学講義」を手掛けたのは1632年のことだが、それから24年後の1656年に、同じようなテーマで追加注文を受けた。注文主は、トゥルプ博士の後任デエイマン博士だった。博士は、同年中に強盗罪で死刑になったヨーリス・ファン・ディーストの死体解剖を行ったのだが、その折の様子を、集団肖像画として描いて欲しいと依頼してきたのである。

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パテシバにまつわる話は、旧約聖書の「サムエル記」に出て来る。パテシバは、ヒッタイト人ウリアの妻であったが、ユダヤのダヴィデが彼女を見初めて強引にセックスした。その結果パテシバは妊娠したのだが、ダヴィデは己の罪を隠そうとして、ウリアを亡き者にしようと画策する。すなわち戦場に赴かせ、味方の軍人に殺すよう命じるのである。

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「川で水遊びする女」と呼ばれるこの絵は、水浴するスザンナのモチーフを援用したものだとか、あるいはパテシバだとかとの説があるが、そんなことを抜きにして、一人の無邪気そうな女性を描いたものと受け取ってみても、なかなかの味わい深さを感じさせる一点。レンブラントの女性像のなかでも、もっとも魅力的なものだ。

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ヘンドリッキエ・ストッフェルスは、1648年にレンブラントと同棲するようになった。彼女の登場で立場を失ったヘールヘトは裁判を起こし、レンブラントの婚約不履行を訴えた。裁判所は彼女の主張を受け入れ、毎年200グルデンの慰謝料を支払うよう命じた。その頃のレンブラントは、放蕩と浪費がたたって借金苦に悩んでいた。

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水浴するスザンナをめぐる逸話は聖書外典「ダニエル書」に出て来る。スザンナは名士ヨアキムの妻だったが、その美しさにユダヤの裁判官の長老二人が横恋慕し、強姦しようとする話である。これをレンブラントは視覚的イメージとして描いた。師のラストマンがチョークで描いたデッサンを参考にしたというが、構図を大胆に変えてある。ラスマトンのデッサンは、腰かけるスザンナと、背後から彼女に話しかける老人たちが描かれているが、この絵では、老人の一人がスザンナに襲い掛かり、スザンナは怯えた表情を見せている。

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今日「夜警」の通称で知られるこの絵は、正式には「フランス・バニング・コック隊長とウィレム・ヴァン・レイテンブルフ副長のひきいる部隊」という。部隊とは、当時オランダに存在した市民軍の一部である。この市民軍は、対スペイン独立戦争で大活躍したのだったが、戦争が終わったあとも、引き続き維持され、いざというときに備えていたのだった。市民軍はいくつかの部隊からなっていたが、そのうちの一つからレンブラントに集団肖像画の注文があった。注文主は、フランス・バニング・コックである。コックは俄か成金で、豊かな財を持っていた。その金でレンブラントに自分が属する市民軍部隊の集団肖像画を描かせたのであった。かれの部隊に限らず、ほかの部隊も競って自分たちの集団肖像画を描かせたそうである。

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「皮をはがされた牛」は、レンブラントとしては珍しいモチーフなので、その真偽が問題になったこともあるが、今日ではレンブラントの真作と広く認められている。こうしたモチーフを選んだのは、なにごとにも挑戦を惜しまないレンブラントの向上心の現われだと解釈されている。

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「目をえぐられるサムソン」も劇的な一瞬をとらえた作品。サムソンは旧約聖書の士師記に出て来るユダヤ人の英雄で、ユダヤ人を苦しめていたペリシテ人を相手に、たびかさなる武勇を示したが、それは神の力添えの賜物だった。ところがある時一時的に神の加護が無くなったところをペリシテ人に襲われ、両目をえぐられてしまう。この絵は、その場のシーンを再現したものだ。

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「ペルシャザルの饗宴」と呼ばれるこの絵も、ドラマチックな雰囲気を強く感じさせる作品だ。旧約聖書のダニエル書に出て来る逸話に取材したもの。ペルシャザルは、バビロン王ナボニドゥスの子で、次期バビロン王になるはずだったが、ユダヤ人を迫害したことで滅亡したというような話である。

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レンブラントには、モチーフとなったものをなるべくドラマチックに描くという傾向が強くあった。この「イサクの生け贄を天使に止められるアブラハム」も、そうした傾向が強く現われている作品だ。これを見る者は、あたかも自分の眼前で実際に起きていることを目撃しているかのような錯覚を覚えるほどだ。

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レンブラントは、自分自身の自画像と妻サスキアの肖像画を熱心に描いたのだが、二人そろってポーズをとっている絵は、この作品くらいだろう。レンブラントは、放蕩息子を気取って酒場で気勢を上げ、妻のサスキアはそれを鷹揚に見守っているというような構図だ。

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レンブラントは生涯に夥しい数の自画像を描いた。油彩、版画を併せると百点を超える。こんなに多くの自画像を描いた画家は他にいない。ゴッホも多くの自画像を残したが、その数はレンブラントの半分以下だ。レンブラントは、自分の肖像をモチーフにしたばかりではない、作品のなかで群衆の一部に自分の姿を描き加えるなど、要するに自分の姿にこだわったのである。

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新婚当時のレンブラントは、新妻サスキアの肖像画を多く描いた。サスキアのほうも我慢強く夫の仕事に付き合った。もっともその仕事は、金のためというより、とりあえずは二人の結婚記念といった性格が強かったようだ。「フローラに扮したサスキア」と呼ばれるこの絵は、そんな一点。春の女神フローラに扮したサスキアをモデルにしている。

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サスキアと結婚した年1634年に、レンブラントはオランダ総督から個人的な注文を受けた。五作からなるキリスト受難連作である。まずキリストをはりつけた十字架の樹立を描いたものと、十字架からの降下を描いたものの二作、続いてキリストの埋葬、復活、焦点をテーマにした三作が注文された。いずれも、上部が半円形になっており、建物の一部にはめ込むように考慮されている。大きさはそれぞれ異なっている。

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レンブラントはアイレンボルフの家で、一人の若い女性と出会った。サスキアといって、アイレンボルフの従妹である。彼女の親は裕福だったが、父親はすでに死んでいた。そのサスキアとレンブラントは、1633年の5月に婚約した。その婚約の前後に、彼女へのプレゼントとして描いたのが、「微笑むサスキア」と呼ばれるこの作品である。

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1631年に、レンブラントはアムステルダムに移り住み、彼の才能に惚れ込んでいた画商アイレンボルフの家に居候した。そのアイレンボルフは、レンブラントのために仕事の注文をとってきたのであるが、そのなかで外科医組合からの集団肖像画の注文があった。その注文を受けて描いた作品「トゥルプ博士の解剖学講義」は、レンブラントの世界的名声を確立することになった。

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レンブラントは、1631年にライデンを去ってアムステルダムに移住する。その直前に描いたのが「女預言者アンナ」。これはレンブラントの母親をモデルにしていると言われるが、真偽は明かではない。この絵の中のアンナは、ひどく老いさらばえていて、しかも農婦のように無骨に描かれている。その時のレンブラントは二十代半ばであり、母親も六十歳であったと思われるので、この描き方は母親を描いたにしては、モデルにとって過酷な描き方である。自分の母親を、こんなイメージで描くというのもちょっと受け入れがたいところがある。

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「30枚の銀貨を返すユダ」は、ライデン時代の代表作で、レンブラントの名を広く知らしめた作品。その頃までは、ラストマン塾の同僚で一つ年下のヤン・リーフェンスのほうが評価が高かった。しかしレンブラントは、この作品を通じて、オランダを代表する画家といわれるようになる。「話し合うペテロとパウロ」で進展ぶりを見せていた明暗対比の激しい画風が、この作品では高い完成度に達したと評価されたのである。

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「話し合うペテロとパウロ」と題されたこの作品もライデン時代の代表作の一つ。22歳の時の作品だ。「トビトとアンナ」は、聖書の中から劇的な題材を選んで、人間同士の葛藤のようなものを描いていたが、この作品は、二人の聖人の静かな対話を描いている。劇的とは言えないが、人間同士の関わり合いを描いているという点では、「トビトとアンナ」に共通するところがある。レンブラントは、人間の行動とか考えとかいうものをモチーフにすることを、若い頃から好んでいたということが、しのばれるところだ。

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