古典を読む

むかし、男、わづらひて、心地死ぬべくおぼえければ、
  つひにゆく道とはかねて聞きしかどきのふけふとは思はざりしを

伊勢物語絵巻百二十一段(梅壺)

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むかし、男、梅壺より雨にぬれて、人のまかりいづるを見て、
  うぐひすの花を縫ふてふ笠もがなぬるめる人に着せてかへさむ
返し、
  うぐひすの花を縫ふてふ笠はいなおもひをつけよほしてかへさむ

伊勢物語絵巻百十七段(住吉行幸)

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むかし、帝、住吉に行幸したまひけり。
  われ見ても久しくなりぬ住吉のきしの姫松いくよ経ぬらむ
おほん神、げぎやうしたまひて、
  むつましと君はしら浪みづがきの久しき世よりいはひそめてき

伊勢物語絵巻百十五段(都島)

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むかし、陸奥の国にて男女すみけり。男、みやこへいなむ、といふ。この女いとかなしうて、馬のはなむけをだにせむとて、おきのゐて都島といふ所にて、酒飲ませてよめる。
  おきのゐて身を焼くよりも悲しきはみやこしまべの別れなりけり

伊勢物語絵巻百十四段(翁さび)

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むかし、仁和のみかど、芹河に行幸したまひける時、今はさること、似げなく思ひけれど、もとつきにけることなれば、大鷹の鷹飼にてさぶらはせたまひける。すり狩衣のたもとに書きつけける。
  翁さび人なとがめそかりごろも今日ばかりとぞ鶴も鳴くなる
おほやけの御けしきあしかりけり。おのがよはひを思ひけれど、若からぬ人は聞きおひけりとや。

伊勢物語絵巻百七段(涙河)

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むかし、あてなるをとこありけり。そのをとこのもとなりける人を、内記にありける藤原の敏行といふ人よばひけり。されど若ければ、文もをさをさしからず、ことばもいひ知らず、いはむや歌はよまざりければ、かのあるじなる人、案をかきて、かかせてやりけり。めでまどひにけり。さてをとこのよめる。
  つれづれのながめにまさる涙河袖のみひぢてあふよしもなし
返し、例のをとこ、女にかはりて、
  あさみこそ袖はひづらめ涙河身さへながると聞かば頼まむ
といへりければ、をとこいといたうめでて、今まで巻きて、文箱に入れてありとなむいふなる。をとこ、文おこせたり。得てのちのことなりけり。雨のふりぬべきになむ見わづらひはべる。身さいはひあらば、この雨はふらじ、といへりければ、例のをとこ、女にかはりてよみてやらす。
  かずかずに思ひ思はず問ひがたみ身をしる雨は降りぞまされる
とよみてやれりければ、蓑も傘も取りあへで、しとどに濡れて惑ひ来にけり。

伊勢物語絵巻百六段(龍田河)

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むかし、をとこ、親王たちの逍遥したまふ所にまうでて、龍田河のほとりにて、
  ちはやぶる神代も聞かず龍田河からくれなゐに水くくるとは

伊勢物語絵巻百四段(賀茂の祭)

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むかし、ことなることなくて、尼になれる人ありけり。かたちをやつしたれど、物やゆかしかりけむ、賀茂の祭見にいでたりけるを、をとこ、歌よみてやる。
  世をうみのあまとし人を見るからにめくはせよとも頼まるるかな
これは、斎宮のもの見たまひける車に、かくきえたりければ、見さしてかへりたまひにけりとなむ。

伊勢物語絵巻百一段(あやしき藤の花)

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むかし、左兵衛の督なりける在原の行平といふありけり。その人の家によき酒ありと聞きて、うへにありける左中弁藤原の良近といふをなむ、まらうどざねにて、その日はあるじまうけしたりける。なさけある人にて、瓶に花をさせり。その花のなかに、あやしき藤の花ありけり。花のしなひ、三尺六寸ばかりなむありける。それを題にてよむ。よみはてがたに、あるじのはらからなる、あるじしたまふと聞きて来たりければ、とらへてよませける。もとより歌のことはしらざりければ、すまひけれど、しひてよませければかくなむ、
  咲く花の下にかくるる人を多みありしにまさる藤のかげかも
などかくしもよむ、といひければ、おほきおとどの栄花のさかりにみまそがりて、藤氏のことに栄ゆるを思ひてよめる、となむいひける。みな人、そしらずなりにけり。

伊勢物語絵巻百段(忘れ草)

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むかし、をとこ、後涼殿のはさまを渡りければ、あるやむごとなき人の御局より、忘れ草を忍ぶ草とやいふ、とて、いださせ給へりければ、たまはりて、
  忘れ草おふる野辺とは見るらめどこはしのぶなりのちも頼まむ

伊勢物語絵巻九九段(ひをりの日)

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むかし、右近の馬場のひをりの日、むかひに立てたりける車に、女の顔の下簾よりほのかに見えければ、中将なりけるをとこのよみてやりける。
  見ずもあらず見もせぬ人の恋しくはあやなく今日やながめ暮さむ
返し、
  知る知らぬなにかあやなくわきていはむ思ひのみこそしるべなりけれ
後は誰と知りにけり。

伊勢物語絵巻九八段(梅の造り枝)

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むかし、おほきおほいまうちぎみときゆるおはしけり。仕ふまつるをとこ、九月ばかりに、梅の造り枝に雉をつけて奉るとて、
  わが頼む君がためにと折る花はときしもわかぬものにぞありける
とよみて奉りたりければ、いとかしこくをかしがりたまひて、使に禄たまへりけり。

伊勢物語絵巻九七段(四十の賀)

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むかし、堀河のおほいまうちぎみと申すいまそがりけり。四十の賀、九条の家にてせられける日、中将なりける翁、
  桜花散りかひ曇れ老いらくの来むといふなる道まがふがに

伊勢物語絵巻九六段(天の逆手)

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むかし、をとこありけり。女をとかくいふこと月経にけり。岩木にしあらねば、心苦しとや思ひけむ、やうやうあはれと思ひけり。そのころ、六月の望ばかりなりければ、女、身に瘡ひとつふたついできにけり。女いひおこせたる。いまはなにの心もなし。身に瘡も一つ二ついでたり。時もいと暑し。少し秋風吹きたちなむ時、かならずあはむ、といへりけり。秋まつころほひに、ここかしこより、その人のもとへいなむずなりとて、口舌いできにけり。さりければ、女の兄人、にはかに迎へに来たり。さればこの女、かへでの初紅葉をひろはせて、歌をよみて、書きつけておこせたり。
  秋かけていひしながらもあらなくに木の葉ふりしくえにこそありけれ
と書きおきて、かしこより人おこせば、これをやれ、とていぬ。さてやがて後、つひに今日までしらず。よくてやあらむ、あしくてやあらむ、いにし所もしらず。かの男は、天の逆手を打ちてなむのろひをるなる。むくつけきこと、人ののろひごとは、負ふ物にやあらむ、負はぬものにやあらむ。いまこそは見め、とぞいふなる。

伊勢物語絵巻九五段(へだつる関)

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むかし、二条の后につかうまつる男ありけり。女の仕うまつるを、つねに見かはして、よばひわたりけり。いかでものごしに対面して、おぼつかなく思ひつめたること、すこしはるかさむ、といひければ、女、いと忍びて、ものごしにあひにけり。物語などして、をとこ、
  彦星に恋はまさりぬ天の河へだつる関をいまはやめてよ
この歌にめでてあひにけり。

伊勢物語絵巻九十段(つれなき人)

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むかし、つれなき人をいかでと思ひわたりければ、あはれとや思ひけむ、さらば、あす、ものごしにても、といへりけるを、限りなくうれしく、またうたがはしかりければ、おもしろかりける桜につけて、
  桜花けふこそかくもにほふともあなたのみがた明日の夜のこと
といふ心ばへもあるべし。

伊勢物語絵巻八七段(蘆屋の里)

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むかし、をとこ、津の国、うばらの郡、蘆屋の里にしるよしして、いきて住みけり。昔の歌に、
  蘆の屋のなだの塩焼いとまなみつげの小櫛もささず来にけり
とよみけるぞ、この里をよみける。ここをなむ蘆屋の灘とはいひける。このをとこなま宮づかへしければ、それをたよりにて、衛府の佐ども集り来にけり。このをとこのこのかみも衛府の督なりけり。その家の前の海のほとりに遊びありきて、いざ、この山のかみにありといふ布引の滝見にのぼらむ、といひて、のぼりて見るに、その滝、物よりことなり。長さ二十丈、広さ五丈ばかりなる石のおもて、白絹に岩をつつめらむやうになむありける。さる滝のかみに、わらふだの大きさして、さしいでたる石あり。その石の上に走りかかる水は、小柑子、栗の大きさにてこぼれ落つ。そこなる人にみな滝の歌よます。かの衛府の督まづよむ。
  わが世をばけふかあすかと待つかひの涙の滝といづれ高けむ
あるじ、次によむ。
  ぬき乱る人こそあるらし白玉のまなくも散るか袖のせばきに
とよめりければ、かたへの人、笑ふことにやありけむ、この歌にめでてやみにけり。

伊勢物語絵巻八五段(めかれせぬ雪)

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むかし、をとこありけり。童より仕うまつりける君、御髪おろし給うてけり。正月にはかならずまうでけり。おほやけの宮仕へしければ、常にはえまうでず。されど、もとの心うしなはでまうでけるになむありける。昔つかうまつりし人、俗なる、禅師なる、あまたまゐりあつまりて、正月なればことだつとて、大御酒たまひけり。雪こぼすがごと降りて、ひねもすにやまず。みな人酔ひて、雪に降りこめられたり、といふを題にて、歌ありけり。
  思へども身をしわけねばめかれせぬ雪のつもるぞわが心なる
とよめりければ、親王、いといたうあはれがり給うて、御衣(おんぞ)ぬぎてたまへりけり。

伊勢物語絵巻八三段(小野の雪)

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むかし、水無瀬に通ひたまひし惟喬の親王、例の狩しにおはします供に、馬の頭なる翁つかうまつれり。日ごろへて、宮にかへり給うけり。御おくりして、とくいなむとおもふに、大御酒たまひ、禄たまはむとて、つかはさざりけり。この馬の頭、心もとながりて、
  枕とて草ひきむすぶこともせじ秋の夜とだにたのまれなくに
とよみける。時は三月のつごもりなりけり。親王おほとのごもらで明かしたまうてけり。かくしつつまうでつかうまつりけるを、思ひのほかに、御ぐしおろしたまうてけり。正月におがみたてまつらむとて、小野にまうでたるに、比叡の山の麓なれば、雪いと高し。しひて御室にまうでておがみたてまつるに、つれづれといともの悲しくておはしましければ、やや久しくさぶらひて、いにしへのことなど思ひ出で聞えけり。さてもさぶらひてしがなと思へど、おほやけごとどもありければ、えさぶらはで、夕暮にかへるとて、
  忘れては夢かとぞ思ふおもひきや雪ふみわけて君を見むとは
とてなむ泣く泣く来にける。

伊勢物語絵巻八二段(渚の院)

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むかし、惟喬の親王と申す親王おはしましけり。山崎のあなたに、水無瀬といふ所に宮ありけり。年ごとのさくらの花ざかりには、その宮へなむおはしましける。その時、右の馬の頭なりける人を、常に率ておはしましけり。時世経て久しくなりにければ、その人の名忘れにけり。狩はねむごろにもせで、酒をのみ飲みつつ、やまと歌にかかれりけり。いま狩する交野の渚の家、その院の桜ことにおもしろし。その木のもとにおりゐて、枝を折りてかざしにさして、上中下みな歌よみけり。馬の頭なりける人のよめる。
  世の中にたえてさくらのなかりせば春の心はのどけからまし
となむよみたりける。又人の歌、
  散ればこそいとど桜はめでたけれ憂き世になにか久しかるべき
とて、その木のもとは立ちてかへるに日ぐれになりぬ。御供なる人、酒をもたせて野よりいで来たり。この酒を飲みてむとて、よき所を求めゆくに、天の河といふ所にいたりぬ。親王に馬の頭、大御酒まゐる。親王ののたまひける、交野を狩りて、天の河のほとりに至るを題にて、歌よみて盃はさせ、とのたまうければ、かの馬の頭よみて奉りける。
  狩り暮らしたなばたつめに宿からむ天の河原に我は来にけり
親王、歌を返すがへす誦じたまうて、返しえし給はず。紀の有常御供に仕うまつれり。それが返し、
  一年にひとたび来ます君待てば宿かす人もあらじとぞ思ふ
帰へりて宮に入らせたまひぬ。夜ふくるまで酒飲み、物語して、あるじの親王、酔ひて入りたまひなむとす。十一日の月もかくれなむとすれば、かの馬の頭のよめる。
  あかなくにまだきも月のかくるるか山の端にげて入れずもあらなむ
親王にかはりたてまつりて、紀の有常、
  おしなべて峰もたひらになりななむ山の端なくは月も入らじを

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