古典を読む

治承四年(1180)の六月、清盛は都を福原(今の神戸市)に移し、安徳天皇、高倉上皇、後白河法皇も福原に移し奉ったが、後白河法皇は引き続き幽閉した。この遷都について都の人々は、京の都は平家の祖先桓武天皇が造営したところで、すばらしい場所であるのに、平家はそこを捨てて荒れ果てさせてしまったと非難した。

敗軍の将源三位頼政は、武勇ならびなきは無論、歌道にも優れていた。そんな頼政が、武勇と歌の道とふたつとも発揮した場面を、平家物語は頼政敗死の後に記す。あたかも武将の功績をたたえるかのように。

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(平家物語絵巻から 橋合戦)

高倉の宮及び宮を守る頼政以下の部隊が、奈良へ向かう途中宇治の平等院で休息した。そこへ平家が追っ手をかけて、迫ってくる。宮側は、宇治川にかかった橋の一部を破壊したりして、平家方を向こう岸に釘付けにしようとするが、平家は平家で、なんとかして河を渡って対岸に進出し、一気に宮方の部隊を殲滅しようとする。

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(平家物語絵巻から 競)

嫡男重盛の死後諌めるもののいなくなった清盛はますます横暴になり、ついには後白河法皇を幽閉するという暴挙に出た。そんな清盛に対して、公家をはじめさまざまな方面から反発の動きが出てくる。後白河法皇の第二皇子高倉の宮が平家打倒に立ち上がったのは、そうした動きを代表するものだ。

平家物語巻第三「有王」の章は、鬼界が島に一人取り残された俊寛の後日譚である。俊寛がかつて召し使っていた有王という童が、鬼界が島に流された三人のうち二人が許されて戻ってきたのに、我が主人俊寛がいまだ島に取り残されたままだと知り、意を決して会いに行く。会いに行ったとて、展望が開ける見込みもないのだが、会わずにはいられないのである。そこで、俊寛の娘から手紙をことづかり、それを大事に持って鬼界が島に向かう。

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(平家物語絵巻から 足摺)

成親の子成経及び康頼、俊寛の三人は薩摩の沖の絶島鬼界が島に流される。成経と康頼は、島に熊野権現を勧請して帰京を祈ったが、不信心な俊寛はその祈りに加わらなかった。康頼は熊野権現に祈りを捧げる一方、自分の思いを書き付けた卒塔婆を千本も海に流した。その一本が安芸の厳島神社に流れ着いたのだったが、それには康頼の望郷の思いを込めた切ない歌が書かれていた。

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(平清盛像 六波羅蜜寺)

清盛打倒の陰謀が発覚し、自分に災厄が及ぶのを恐れた多田蔵人行綱が、清盛に密告した。怒った清盛は、成親を監禁し、西光を拷問の末虐殺した。西光の子、師高、師経兄弟も惨殺された。清盛は成親も殺そうとするが、嫡男の重盛が教訓して成親の命乞いをした(小教訓の章)。重盛は成親の妹を妻にしていたのである。

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(平家物語絵巻から 鹿谷)

清盛は、娘の徳子を高倉天皇の后にすることで天皇家の外戚となり、その地位はますます高まる一方だった。清盛はその地位を利用して、官位の授与も思うがまま、平家の一族を重要なポストにつけた。それに反感を抱く人々が、平家打倒の動きに出る。巻第一「鹿谷」の章は、そんな動きを伝えるもので、やがて平家物語の前半をかざる僧俊寛たちの運命の序曲となる部分である。

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(平家物語絵巻から 祇王)

権力の絶頂に上り詰めた清盛は、ますます傲慢になってゆく。そんな清盛の傲慢さを描く一方、その傲慢さに翻弄される白拍子たちの、怨念を超えた友情を育むさまを描いたのが、巻第一第六章の「祇王」である。平家物語の中でも、最も演劇的な部分の一つである。

平家物語巻第一第四章「禿髪」は、清盛の絶大な権力を支えていた秘密警察のようなものについて語る。禿髪とは少年の髪型のことをいうが、そのような髪型で統一した警察部隊に都を巡回させ、平家に批判的な言動をするものを悉く弾圧した。平家の権力が磐石だったのは、こうした警察権力が機能して、対立勢力が成長しなかったからだ。

平家物語巻第一第三章「鱸」は、忠盛から清盛に至って平家が貴族として磐石の基盤を築いてゆくさまを語る。前半部分では、忠盛が貴族としての地位を確立するさまを、後半部分では忠盛の死後平家を継いだ清盛が、保元、平治の乱の勲功を経て宰相にのし上がるさまを語る。

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(平家物語絵巻から 殿上闇討)

冒頭に続いて、忠盛が平家一門興隆の基礎を築いてゆくさまが語られる。その最初のきっかけは、忠盛が三十三間堂を造営して鳥羽上皇に寄進したことで、昇殿を許される身になったことである。ところが忠盛の出世を喜ばない貴族たちが、忠盛の暗殺をたくらむ。「殿上闇討」の章は、そうした貴族たちの企みに忠盛がいかに対応したかについて語る。

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(平家納経から)

~祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響あり。娑羅双樹の花の色、盛者必衰のことはりをあらはす。おごれる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。たけき者も遂にはほろびぬ、ひとへに風の前の塵に同じ。

抑一期の月かげ傾きて、餘算の山の端に近し。たちまちに三途のやみに向はんとす。何の業をかかこたむとする。佛の教へ給ふ趣は、事にふれて執心なかれとなり。今草庵を愛するも、閑寂に着するも、障りなるべし。いかゞ要なき楽しみを述べて、あたら時を過さむ。

夫、三界は只心一つなり。心若しやすからずば、牛馬、七珍もよしなく、宮殿、樓閣も望みなし。今さびしきすまひ、一間の庵、みづからこれを愛す。おのづから都に出でゝ、身の乞食となれる事を恥ずといへども、帰りてこゝに居る時は、他の俗塵に馳することをあはれむ。若し人このいへる事を疑はゞ、魚と鳥とのありさまを見よ。魚は水に飽かず。魚にあらざれば、その心を知らず。鳥は林を願ふ。鳥にあらざれば其の心をしらず。閑居の氣味もまた同じ。住まずして誰かさとらむ。

夫、人の友とあるものは、富めるをたふとみ、懇ろなるを先とす。必ずしも情あるとすなほなるとをば不愛。只絲竹、花月を友とせむにはしかじ。人の奴たるものは、賞罰のはなはだしく、恩顧厚きを先とす。更にはぐくみあはれむと、やすくしずかなるをば願はず、只わが身を奴婢とするにはしかず。いかが奴婢とするならば、若しなすべきことあれば、すなはちおのづから身をつかふ。たゆからずしもあらねど、人を従へ、人をかへりみるよりはやすし。若し歩くべき事あれば、みづから歩む。苦しといへども、馬鞍、牛車と心を悩ますにはしかず。

おほかた、この所に住みはじめし時は、あからさまと思ひしかど、いますでに五年を經たり。假の庵もやゝふるさととなりて、軒に朽葉深く、土居に苔むせり。おのづからことの便りに都を聞けば、この山にこもり居て後、やむごとなき人のかくれ給へるもあまた聞ゆ。ましてその數ならぬたぐひ、尽くしてこれを知るべからず。たびたび炎上にほろびたる家、またいくそばくぞ。たゞ仮の庵のみ、のどけくして恐れなし。程狭しといへども、夜臥す床あり、昼居る座あり。一身を宿すに不足なし。かむなはちひさき貝を好む、これ事知れるによりてなり。みさごは荒磯に居る、則ち人を恐るゝが故なり。われまたかくのごとし。事を知り世を知れれば、願はず、わしらず、たゞしづかなるを望みとし、うれへ無きを楽しみとす。

又、ふもとに一つの柴の庵あり。すなはちこの山守が居る所なり。かしこに小童あり、時々來りてあひとぶらふ。若しつれづれなる時は、これを友として遊行す。かれは十歳、われは六十、その齡ことの外なれど、心を慰むること、これ同じ。或は芽花をぬき、岩梨をとり、ぬかごをもり、芹をつむ。或はすそわの田居にいたりて、落穂を拾ひて穂組を作る。若しうらゝかなれば、嶺によぢのぼりて、はるかにふるさとの空を望み、木幡山、伏見の里、鳥羽、羽束師を見る。勝地は主なければ、心を慰むるにさはりなし。歩み煩らひなく、心遠くいたる時は、これより峯つゞき、炭山を越え、笠取を過ぎて、或は岩間にまうで、或は石山を拝む。若しは粟津の原を分けつつ、蝉丸翁が迹をとぶらひ、田上川を渡りて、猿丸大夫が墓をたづぬ。歸るさには、折につけつゝ櫻を刈り、紅葉を求め、蕨を折り、木の實を拾ひて、かつは佛に奉り、かつは家づととす。

その所のさまをいはゞ、南にかけひあり、岩を立てて水をためたり。林の木近ければ、爪木を拾ふに乏しからず。名を音羽山といふ。まさきの蔓跡うづめり。谷しげゝれど、西はれたり。觀念のたよりなきにしもあらず。春は藤波を見る。紫雲のごとくして、西方ににほふ。夏は郭公をきく。語らふごとに、死出の山路を契る。秋は日ぐらしの聲耳に満てり。うつせみの世を悲しむかと聞ゆ。冬は雪をあはれぶ。積り消ゆるさま、罪障にたとへつべし。

方丈記(十)

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こゝに六十の露消えがたに及びて、更に末葉のやどりを結べる事あり。いはゞ狩人の一夜の宿をつくり、老いたる蚕の繭を営むがごとし。是を中ごろのすみかにならぶれば、また百分が一に及ばず。とかくいふほどに、齢は歳々に高く、すみかはをりをりに狭し。その家のありさま、世の常にも似ず、廣さはわづかに方丈、高さは七尺がうちなり。所を思ひ定めざるがゆゑに、地を占めて作らず。土居を組み、うちおほひを葺きて、継ぎごとにかけがねをかけたり。若し心にかなはぬ事あらば、やすく外へ移さむがためなり。その改め作る事、いくばくの煩ひかある。積むところわづかに二輌、車の力を報ふほかは、さらに他の用途いらず。

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