古典を読む

方丈記(三)

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又治承四年卯月の頃、中御門京極のほどより、大きなる辻風おこりて、六條わたりまで吹けること侍りき。

方丈記(二)

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予ものの心を知れりしより、四十あまりの春秋をおくれる間に、世の不思議を見る事やゝ度々になりぬ。

方丈記(一)

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ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。よどみに浮ぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとゞまりたるためしなし。世の中にある人と栖と、またかくの如し。

よしなしごと(三):堤中納言物語

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侘しき事なれど、露の命絶えぬ限りは食物も用侍る。妙高合子の信濃梨、斑鳩山の枝栗、三方の郡の若狹椎、天の橋立の丹後和布、出雲の浦の甘海苔、みのはしのかもまがり、若江の郡の河内蕪、野洲・栗太の近江餅、小松・かぶとの伊賀乾瓜、掛田が峯の松の実、道の奥の島のうべあけび、と山の柑子橘、これ侍らずは、やもめの邊の熬豆などやうの物、賜はせよ。 

よしなしごと(二):堤中納言物語

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旅の具にしつべき物どもや侍べる。貸させたまへ。 まづ要るべき物どもよな。雲の上にひらきのぼらむ料に、天羽衣一つ、料にはべる。求めて給へ。それならでは、袙・衾、せめて、なくは、布の破襖にても。又は、十餘間の檜皮屋一・廊・寢殿・大炊殿・車宿りもよう侍れど、遠き程は、所狹かるべし。唯、腰に結ひつけて罷るばかりの料に、やかた一つ。

よしなしごと(一):堤中納言物語

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人のかしづくむすめを、ゆゑだつ僧忍びて語らひけるほどに、年の果てに山寺に籠るとて、「旅の具に、筵・疊・盥・はんざふ貸せ」と言ひたりければ、女、長筵、何やかや供養したりける。それを、女の師にしける僧の聞きて、「我ももの借りにやらむ。」とて、書きてやりける文の詞のをかしさに、書き寫して侍るなり。世づかずあさましきことなり。唐土・新羅に住む人、さては常世の國にある人、我が國にはやまかつ、みやつこの戀まろなどや、かゝる詞は聞ゆべき。それだにも。

はいずみ(五):堤中納言物語

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此の男、いと引切りなりける心にて、 「あからさまに」 とて、今の人もとに昼間に入り來るを見て、女に、「俄に殿おはすや」 といへば、うちとけて居たりける程に、心騷ぎて、 「いづら、何處にぞ」 と言ひて、櫛の箱を取り寄せて、しろきものをつくると思ひたれば、取り違へて、はいずみ入りたる疊紙を取り出でて、鏡も見ずうちさうぞきて、女は、 「そこにて、暫しな入り給ひそ、といへ」 とて、是非も知らずさしつくる程に、男、 「いととくも疎み給ふかな」 とて、簾をかき上げて入りぬれば、疊紙を隱して、おろおろにならして、口うち覆ひて、夕まぐれに、したてたりと思ひて、まだらにおよび形につけて、目のきろきろとしてまたゝき居たり。

はいずみ(四):堤中納言物語

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男うちおどろきて見れば、月もやうやう山の端近くなりにたり。「怪しく、遲く歸るものかな。遠き所に往きけるにこそ」と思ふも、いとあはれなれば、 
  住み馴れし宿を見捨てて行く月の影におほせて戀ふるわざかな 
といふにぞ、童ばかり歸りたる。 

はいずみ(三):堤中納言物語

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今の人明日なむ渡さむとすれば、この男に知らすべくもあらず。車なども誰にか借らむ。送れ、とこそは言はめと思ふも、をこがましけれど、言ひ遣る。 「今宵なむ物へ渡らむと思ふに、車暫し」 となむ言ひやりたれば、男、「あはれ、いづちにとか思ふらむ。往かむさまをだに見む。」と思ひて、今此處へ忍びて來ぬ。女待つとて端に居たり。月の明きに、泣く事限りなし。
  我が身かくかけ離れむと思ひきや月だに宿をすみ果つる世に 
と言ひて泣く程に、來れば、さりげなくて、うちそばむきて居たり。 

はいずみ(二):堤中納言物語

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見れば、あてにこゝしき人の、日ごろ物を思ひければ、少し面瘠せていとあはれげなり。うち恥ぢしらひて、例のやうに物言はで、しめりたるを、いと心苦しう思へど、さ言ひつれば、言ふやう、 

はいずみ(一):堤中納言物語

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下わたりに、品賤しからぬ人の、事も叶はぬ人をにくからず思ひて、年ごろ經るほどに、親しき人の許へ往き通ひけるほどに、むすめを思ひかけて、みそかに通ひありきにけり。珍しければにや、初めの人よりは志深く覺えて、人目もつゝまず通ひければ、親聞きつけて、 「年ごろの人をもち給へれども、いかゞせむ」 とて許して住ます。

花々のをんな子(四):堤中納言物語

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内裏にも參らず徒然なるに、かの聞きし事をぞ、「その女御の宮とて、のどかには」、「かの君こそ容貌をかしかなれ」など、心に思ふこと、歌など書きつゝ、手習にしたりけるを、又、人の取りて書きうつしたれば、怪しくもあるかな。これら作りたるさまも覺えず、よしなき物のさまかな。虚言にもあらず。世の中にそら物語多かれば、實としもや思はざるらむ。これ思ふこそ妬けれ。

花々のをんな子(三):堤中納言物語

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この女たちの親、賤しからぬ人なれど、いかに思ふにか、宮仕へに出したてて、殿ばら、宮ばら、女御達の御許に、一人づゝ參らせたるなりけり。同じ兄弟ともいはせで、他人の子になしつゝぞありける。この殿ばらの女御たちは、皆挑ませ給ふ御中に、同じ兄弟の別れて候ふぞ怪しきや。皆思して候ふは知らせ給はぬにやあらむ。好色ばらの、御有樣ども聞き、嬉しと思ひ至らぬ處なければ、此の人どもも知らぬにしもあらず。 

花々のをんな子(二):堤中納言物語

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命婦の君は、 「蓮のわたりも、此の御かたちも、この御方など、いづれ勝りて思ひ聞え侍らむ。にくき枝おはせじかし
  はちす葉の心廣さの思ひにはいづれと分かず露ばかりにも」。
六の君、はやりかなる聲にて、 「瞿麥を床夏におはしますといふこそうれしけれ 
  とこなつに思ひしげしと皆人はいふなでしこと人は知らなむ 」
と宣へば、七の君したりがほにも、 
刈萱のなまめかしさの姿にはそのなでしこも劣るとぞ聞く 
と宣へば、皆々も笑ふ。 

花々のをんな子(一):堤中納言物語

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其のころの事と數多見ゆる人眞似のやうに、かたはら痛けれど、これは聞きし事なればなむ。賤しからぬすきものの、いたらぬ所なく、人に許されたる、やんごとなき所にて、物言ひ、懸想せし人は、この頃里に罷り出でてあなれば、實かと往きて氣色見むと思ひて、いみじく忍びて、唯小舍人童一人して來にけり。近き透垣の前栽に隱れて見れば、夕暮のいみじくあはれげなるに、簾捲き上げて、「只今は見る人もあらじ」と思ひ顔に打解けて、皆さまざまにゐて、萬の物語しつゝ、人のうへいふなどもあり。はやりかにうちさゝめきたるも、又恥しげにのどかなるも、數多たはぶれ亂れたるも、今めかしうをかしきほどかな。 

あさましき事は、今の一人の少將の君も、母上の御風よろしきさまに見え給へば、「彼所へ」と思せど、「夜など、きと尋ね給ふ事もあらむに、折節なからむも」と思して、御車奉り給ふ。これはさきざきも、御文なき折もあれば、何とも宣はず。例の清季參りて、 「御車」 といふを、申し傳ふる人も、一所はおはしぬれば、疑ひなく思ひて、 「かく」 と申すに、これも「いと俄に」とは思せど、今少し若くおはするにや、何とも思ひ至りもなくて、人々御衣など著せ換へ奉りつれば、我にもあらでおはしぬ。

權少將は、大將殿のうへの、御かぜの氣おはするにことつけて、例の泊り給へるに、いと物騒しく、客人など多くおはする程なれど、いと忍びて御車奉り給ふに、左衞門の尉も候はねば、時々もかやうの事に、いとつきづきしき侍にさゝめきて、御車奉り給ふ。大將殿のうへ、例ならず物し給ふ程にて、いたく紛るれば、御文もなき由宣ふ。

かやうにて明し暮し給ふに、中の君の御乳母なりし人はうせにしが、むすめ一人あるは、右大臣の少將の御乳母子の左衞門の尉といふが妻なり。たぐひなくおはするよしを語りけるを、かの左衞門の尉、少將に、 「しかじかなむおはする」 と語り聞えければ、按察の大納言の御許には心留め給はず、あくがれありき給ふ君なれば、御文などねんごろに聞えたまひけれど、つゆあるべき事とも思したらぬを、姫君も聞き給ひて、 「思ひの外にあはあはしき身の有樣をだに、心憂く思ふ事にて侍れば、まことに強きよすがおはする人を」 など宣ふも哀れなり。

昔物語などにぞ、かやうな事は聞ゆるを、いと有難きまで、あはれに淺からぬ御契りの程見えし御事を、つくづくと思ひ續くれば、年の積りけるほども、あはれに思ひ知られけり。 

かひあはせ(三):堤中納言物語

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いとほそき聲にて、
  かひなしとなに歎くらむしら浪も君がかたには心寄せてむ
といひたるを、さすがに耳疾く聞きつけて、 「今かたへに聞き給ひつや」 「これは、誰がいふにぞ」 「觀音の出で給ひたるなり」 「嬉しのわざや。姫君の御前に聞えむ」 と言ひて、さ言ひがてら、恐ろしくやありけむ、連れて走り入りぬ。 

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