経済学と世界経済

アベノミクスのおかげで株高・円安が実現し、日本経済が俄に活性化したという言説がまかり通っているが、実はそうではない。これらはいずれもアベノミクスとは関係のない現象であり、かりに民主党政権がそのままつづいていたとしても起きていたことだ、と老壮の経済学者伊東光晴氏が断罪している。安倍・黒田の両氏は、実は何もしていない。彼らがいうところのアベノミクスの内実は空虚そのものだというのである。(「世界」8月号)

日頃率直な物言いで知られる経済学者の浜矩子女史が、「アベノミクス」を「アホノミクス」と言い換えて、世間の失笑を買ったのはつい最近のことだが、その折、「アベ」がどんなわけで「アホ」になるのか、得心のいかない人もいたことだろう。そういう人たちのために、女史自らが「アベ」の「アホ」たる所以を解説してくれた本がある。「アベノミクスの真相」と題した本だ。文字の数はそんなに多くないし、わかりやすいときているので、読むには手ごろな本だと思う。
世界を股にかけてビジネスを展開する多国籍企業。彼らにとって最大級の関心事は、いなに税金を少なく支払うかということだ。そのために、様々な工夫をしている。本社をタックス・ヘブンと呼ばれる国や地域に置くなどは、イロハのイだ。

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上のグラフ(Eurobarometer をもとにGuardianが作成)は、EU加盟六か国における、EUへの不信の割合を示したものだ。2007年と2012年のデータが示されているが、すべての国でこの5年間に不信の割合が上昇していることが読み取れる。それも単なる上昇ではない、大部分の国では、不信が信頼を大きく上回り、全体の半数以上を占めている。このことは、いまやEUそのものが、存続の危機を感じさせるほどに、各国の民衆から見放されているということを意味する。

アメリカの経済学者者カーメン・ラインハート(Carmen Reinhart)とケネス・ロゴフ(Kenneth Rogoff)が2010年に発表したいわゆる90パーセント理論は、ユーロ圏の経済官僚やアメリカ共和党の武器として重用されてきた。その理論と云うのは、政府の借金がGDPの90パーセントを超えると、その国の経済成長が鈍化するというものだ。それ故、経済成長を長期的に続けていくためには、財政規律を徹底しなければならない、という主張の有力な根拠とされたわけだ。
いわゆるアベノミクスのわからないところのひとつに、一方ではケインズ流の積極財政を正面に掲げる一方、成長のためには規制緩和が必要だといいながら、いままで規制緩和に熱心だった学者たちのうち、市場原理主義者と目されるような連中が大手を振って復活していることだ。この連中はリーマンショックの犯人の片割れだと言われて、一時はエコノミックスの王道から追放されたかにみえたが、どっこいしぶとく生き残りを図っている。
アベノミクスが一定の効果を現しているらしく、円安株高が進んでいる。特に円安は目覚ましく、安倍政権発足時に70円台後半だったものが、90円を超える水準まで進んだ。円安は当然輸出に有利に働くので、この傾向が定着すれば、日本経済にとって好ましい状況が期待できる。株高とダブルで進めばいうことはない。
ノーベル経済学賞受賞者のポール・クルーグマン教授が、ニューヨーク・タイムズのコラムの中で、いわゆるアベノミクスを積極的に評価している。欧米の先進国が中途半端な経済政策のためになかなか不況から脱出できていないなかで、安倍氏の打ち出した政策には十分な効果が期待できるというのだ。その政策とは、果敢な財政出動とインフレターゲットの組み合わせ。どちらもクルーグマン教授が日頃力説しているものだ。(Japan Steps Out By Paul Krugman)
安倍首相が早速打ち出した経済活性化対策が注目を集めている。それどころか、市場がそれに反応して、円安株高の状況まで生じている。果して、アベノミクスと呼ばれている安倍首相の経済政策は、中長期的に機能して、一時的な好景気に終わらず、本格的な日本経済再生につながるのだろうか。

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NHKスペシャルが特集していた番組「日本国債」を興味深く見た。いまでは磐石の信用力を誇るといわれる日本国債だが、その信用がいつまでも続く保証はない。実際に国・地方合わせた日本の政府部門による借金は1000兆円、そのうち日本国債の割合は700兆円あまり、国の一般会計予算の8年分に達する。こんなに巨額の借金をしている国は、先進国では日本以外どこにもない。

シュンペーターは日本では、経済学者としてより政治思想家として有名になってしまったところがある。彼の「資本主義、社会主義、民主主義」は、社会の経済的な発展が、政治体制に与える影響について、骨太の視点を提供したものである。彼によれば、資本主義の発展は必然的に社会主義(厳密に言えば社会民主主義的な混合体制)をもたらし、それが民主主義の拡大につながるというものだ。いわば必然史観というべきもので、彼はこれを若い時代に洗礼を受けたマルクスに触発されて思いついたようである。
日本の異常なデフレを解消する策としてインフレターゲットを持ち出したのはノーベル賞経済学者のクルーグマン教授だった。日本人の学者の中では浜田宏一氏らリフレ派と称される人たちが唱えている。彼らは、経済全体がデフレで苦しんでいるのであれば、その反対であるインフレを人工的に起こすことで、経済を上向きにすることができると考えたわけである。
1990年代以降の日本の不況をバランスシート不況だと定義づけるリチャード・クー氏は、問題を解決するカギは政府による財政出動だと主張する。そして現実の日本政府の財政運営が、おおむねそういう方向をとったために不況が深刻化せず、恐慌に陥らずに済んだと評価するわけであるが、日本経済はその過程で二度のゆり戻しを経験した。1997年から1998年にかけての不況の深刻化と、2002年以降の銀行危機である。どちらもマネタリスト的な発想による政策によって、経済に有害な影響を与えた結果であった、と氏はいう。
リチャード・クー著「デフレとバランスシート不況の経済学」を読んだ。この本が書かれたのは2003年のことだが、その時点で日本はすでに10年間にもわたる長い不況にあえいでいた。その不況の根本的な原因を、著者のリチャード・クー氏は企業のバランスシートの悪化に求めた。
筆者は先日リチャード・クー氏の著作「不況とバランスシート不況の経済学」を読んで、非常に啓発されるところがあった。この本は、1990年代以降の日本の不況に焦点を当てていて、その不況の本質を、企業がバランスシートを回復させるために金を借りなくなったという事情に求めていた。こうした事情は、1930年代のアメリカ大恐慌でも見られたものであり、経済が巨大なバブルに踊った後で訪れるものだと、分析していた。
アメリカの歴史家でカルフォルニア大学教授のアレクサンダー・ゼヴィンが、イギリスの経済誌エコミストについて、どういうわけかフランスの高級紙ル・モンド紙上において、痛烈に批判した。その記事が「世界」の最近号で紹介(嶋崎正樹訳)されており、興味深く読んだ。というのも、筆者は日頃エコノミストの記事をかなり読んでいるほうだからである。
IMF・世銀の年次総会が48年ぶりに日本で開催されている。折からの日中対立を背景に、今や世界第二の経済大国になった中国の金融当局トップが「日本の面子をつぶす」のを目的に参加しなかったというハプニングが起きたが、それは別として、肝心の議論には実りあるものが見られたか。どうも、あまりはかばかしくはないようだ。
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