映画を語る

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1942年のアメリカ映画「偉大なるアンバーソン家の人々(The Magnificent Ambersons)」は、「市民ケーン」に続くオーソン・ウェルズの第二作である。「市民ケーン」では、新聞王といわれたウィリアム・ハーストをモデルに、アメリカの俄成金を描いたものだったが、第二作目もやはりアメリカの俄成金がテーマとなっている。一時は豪勢を極めた俄成金の一家が、あっけなく没落する過程を描く。それにアメリカ人流儀の恋がからむというわけだ。

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ジョージ・スティーヴンスの1951年の映画「陽のあたる場所「(A Place in the Sun)」は、セオドア・ドライザーの小説「アメリカの悲劇」を映画化したものである。原作はアメリカ文学史上もっともアメリカ的な文学だとの評価が高い。アメリカ的な文学とは、アメリカ的な生き方を描いたものということになろうが、そのアメリカ的な生き方とは、常にチャンスを求めて這い上がろうとする上昇志向の生き方をさす。原作の小説は、アメリカ人の一青年のそうした上昇志向と、その犠牲になった哀れな娘との不幸な恋を描いた。

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1934年のアメリカ映画「痴人の愛(Of Human Bondage)」は、ベティ・デヴィスを大女優にした記念すべき作品である。というのも、小生のようなベティ・デヴィスのオールド・ファンにとっては、彼女を一躍大女優に押し上げたこの映画は、実に記念するに値するのだ。

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ベティ・デヴィスはアメリカ映画史上最高の女優の一人だと言われる。独特の風貌と妖艶な雰囲気が強烈なインパクトをもって迫って来る。小生が彼女を映画で見たのは、ウィリアム・ワイラー監督の「黒蘭の女」が最初だったが、それ以来すっかり彼女にのぼせ上ってしまい、是非こんな女を愛人にしたいと、未成年にして思ったものだ。

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ジョゼフ・L・マンキウィッツはポーランド系のユダヤ人である。映画作りではあまり思想性を出すことはなかったが、なぜか保守派から目の仇にされ、いわゆるマッカーシズムの嵐のなかで、レッド・パージされそうになったこともある。監督協会会長になったときに、人種差別主義者のセシル・B・デミルから攻撃され、ジョン・フォードに擁護されたというエピソードは有名である。

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フィリップ・カウフマンによる1988年制作のアメリカ映画「存在の耐えられない軽さ(The Unbearable Lightness of Being)」は、チェコの亡命作家ミラン・クンデラの同名の小説を映画化したもの。20世紀後半における世界文学最高傑作といわれるこの作品を、小生は大変感心して読んだので、どのような映画化されているか非常に関心があった。ごく単純化していうと、原作の雰囲気をかなり忠実に再現している。筋書きはほとんど原作をなぞっているのだが、映画向けに多少脚色しなおしている。原作は、時間の流れを無視して、前後関係が入り乱れているのだが、この映画は一直線の流れの中に再編成している。つまり主人公たちが出会ってから死ぬまでの間を、直線的に描いているのである。

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侯孝賢が2015年に作った「黒衣の刺客(刺客 聶隱娘)」は、一応台湾映画だが、中国の古代史に題材をとった武侠映画である。武侠映画というのは、武術の達人が悪党相手に暴れまわるというのがパターンだが、この映画の場合には、その武術の達人は女ということになっている。しかも、その女に武術を教えたのも女の導師である。これは中国が男女平等を重んじる文化を反映しているのかといえば、そうでもないらしい、中国でも女が武侠になって暴れまわるという伝説はほとんどないらしいし、また道教の導師に女がいたという話も聞かないから、これは侯孝賢の創造ということなのだろう。女が武術で活躍する話は、日本ではくノ一伝説として残っているが、中国では、そういう伝説は聞いたことがない。やはり中国は、男尊女卑の国柄なのである。

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侯孝賢の親日家ぶりは日本映画界でも評価されて、松竹は会社設立百周年記念映画の製作を、かれにまかせたほどだ。かれはそれに応えて、日本にわたり、日本の金で、日本人の俳優をつかい、日本語の映画を作った。2004年の作品「珈琲時光」がそれである。このタイトルは、コーヒータイムとかコーヒーブレークを意味する台湾言葉で、これだけからは、台湾映画を連想させるが、中身は純粋な日本映画に仕上がっている。

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侯孝賢(ホウ・シャオシェン)は、台湾近現代史にテーマをとった作品をいくつか作っている。1989年の「非情城市」はその代表作で、先の大戦で敗戦国となった日本が台湾から去ったあとに、大陸からやってきた蒋介石の一派が、現地の反抗分子を弾圧するところを描いていた。1995年の「好男好女」は、戦前戦後に生きた二組の台湾人男女の生き方がテーマである。二組のうちの一組は、戦前には抗日戦への参加を望んで大陸にわたり、戦後は台湾に戻って来るも、反国民党の運動を弾圧されて、不幸な一生を終えるという筋書きである。

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台湾の映画監督侯孝賢には、台湾近現代史に題材をとった一連の作品がある。1989年の映画「悲情城市」は、1945年の日本の敗戦に始まり、蒋介石の国民党政権が台湾に樹立されるまでの期間を描いている。流通している見方では、日本による植民地支配から解放されて、国の自立に向って動き出した時期ということになるようだが、この映画の視点は、それとは微妙に異なっている。日本への批判意識はほとんど現前化せず、そのかわりに国民党への批判意識が前面に出ているのだ。あたかも、日本による統治時代のほうがましだったと言いたいかのようである。

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1984年の台湾映画「冬冬の夏休み」は、侯孝賢監督自身の少年時代の回想を描いた作品だそうだ。侯孝賢は、どういうわけかは知らぬが、日本贔屓と見え、「非情城市」では、大陸からやってきた蒋介石より、追放された日本人のほうがずっとましだといった描き方をしていた。この「冬冬の夏休み」でも、そうした日本へのこだわりが垣間見える。舞台となった屋敷は日本風の建物だし、映画の冒頭とラストシーンでは、日本の唱歌が流される。冒頭の卒業式のシーンでは「仰げば尊し」が歌われるのだし、ラストシーンでは「兎おいしふるさと」のメロディが流されるのだ。これらは日本統治時代の名残ということだろうか。

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河瀬直美の2017年の映画作品「パラレルワールド」は、20分たらずの小品である。筋書らしいものはない。若い男女の初恋らしいものを、情緒豊かに描いている。映画としては、大胆な試みといえる。短編小説という分野が成り立つのであれば、短編映画も成り立つだろう。それも映画独自のロジックに基づいて。そんな意欲を感じさせる作品である。

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藤田敏八は日活ロマンポルノの旗手として知られ、若い頃の桃井かおりに濡れ場を演じさせたりしていたが、商業映画も手掛けた。1981年の作品「スローなブギにしてくれ」は、かれの商業映画の代表作だ。もっとも制作費をわずかに回収できたくらいで、ヒットはしなかった。一方、同名の主題歌は大ヒットして、いまでも日本の歌謡曲のスタンダードナンバーになっている。

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1990年台ごろから、日本も国際化が進み、外国人が多くやってくるようになった。なかでも中国人は、流入外国人としてはもっとも大きな割合を占め、従来からの在日韓国・朝鮮人にひっ迫する勢いを示すようになった。そういう傾向を背景にして、日本人の外国人差別意識も高まって行ったのではないか。柳町光男の1993年の映画「愛について、東京」は、そんな外国人への差別意識を強く感じさせる作品である。それまで外国人を主人公にした映画がほとんどなかったなかで、この作品のインパクトは大きかったようだ。それも否定的な意味で。この映画が公開されるや、中国人への差別意識に反発した団体が抗議のアクションを起こし、柳町らはその抗議を受け入れて、作品を再編集した。現在DVDで見られるのは、再編集後のバージョンで、オリジナルに比べて15分ほど短い。

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柳町光男の1979年の映画「十九歳の地図」は、中上健次の同名の短編小説を映画化したものである。小生は原作を未読だが、中上の代表作は何篇か読んでおり、その印象からすれば、この映画は中上的な雰囲気をよくあらわしていると思える。中上の小説の特徴は、日本社会の矛盾を一身に背負ったような男が、自分の宿命をクールに受けとめるといったものだ。そういう中上的な特徴が、この映画にはよく出ているのである。

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呉美保の2010年の映画「オカンの嫁入り」は、母娘の情愛を中心にした人情劇である。監督の呉美保は在日韓国人だが、日本で育ったこともあり、日本人の人情をよくわかっている。この映画はそうした呉の目から見た日本人の人情のあり方に、それへの多少スパイスをきかせた批判を込めて、日本の庶民、それも関西に暮らす庶民の生き方を、ウェットなタッチで描いたものだ。

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山崎貴の2019年の映画「アルキメデスの大戦」は、三田紀房の同名の漫画を映画化したもの。戦艦大和を象徴とする日本海軍の末路をテーマにしたものだが、山本五十六はじめ実在の人物をまじえながらも、内容的には全くのフィクションといってよい。その点は、ゼロ戦の開発をめぐる宮崎駿のアニメ映画「風たちぬ」のほうが、現実の話に近い。

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石井克人の2004年の映画「茶の味」は、ホームドラマをアニメ趣味で味付けしたような作品だ。アニメでなら不思議ではないようなことが、現実の出来事として語られるといった具合なのだ。筋書きらしいものはない。家族の成員それぞれの身に起こる出来事が、雑然と描写されるのである。

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2015年の映画「ディーパンの闘い(Dheepan)」は、スリランカの内戦で難民となってフランスにやってきた人々を描いた作品。フランス人監督ジャック・オーディアールが作ったフランス映画だが、主演俳優はスリランカのタミル人で、かれらが話す言葉もタミル語である。

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クロード・ルルーシュといえば、1968年のグルノーブル冬季オリンピック記録映画「白い恋人たち」の監督として有名だ。その二年前に作った「男と女(Un homme et une femme)」は、かれの出世作となった作品である。

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