莫言の作風は、マジック・リアリズムとかグロテスク・リアリズムとか評される。マジックというのは、時空を超えた自在な語り口をさしていうのであろう。また、グロテスクというのは、暴力をさりげなく描写することを意味するようだ。莫言は暴力を、小説を彩るもっとも大きな要素として使っている。その描写の仕方は、あまりにもストレートなので、妙にサバサバとしている。あまり陰惨な感じはしない。そこがかえって読者をグロテスクなものを見たという感じにさせるのであろう。大江健三郎や村上春樹の暴力表現とは、かなり異なっている。大江や村上の暴力表現は迫真性を伴なっているので、読者は自分自身が追体験しているように感じるが、莫言の暴力描写にはそうした迫真性はない。だから読者は、遠くから眺めているような気持ちで読めるのである。グロテスクなものを見るような気持ちで。
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