映画を語る

野いちご:イングマル・ベルイマン

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イングマル・ベルイマンの映画「野いちご」は、老いと死を追求した作品である。ベルイマンは前作「第七の封印」において、死を人間の外から襲い掛かってくる凶暴な力として描いていたが、この作品では、老いがはぐくみ育てる果実のようなものとして描いている。それは人間にとって避けがたい宿命としては、誰もがたじろがざるをえないものだが、自分の生きてきたことの意味を考えさせずにやまないものとしては、なつかしいものでもある。少なくとも、沈黙を強いる暴力ではない。それはかえって愛の感情を掻き立てる。何故なら愛とは人間の生命に固有のものだからだ。その生命の暖かい営みが消えそうになるとき、人は愛の最後のほとばしりを感じるに違いないのだ。

第七の封印:イングマル・ベルイマン

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イングマル・ベルイマンの映画「第七の封印」は、ヨハネの黙示録にある七つの封印の寓話をもとにし、これに中世ヨーロッパにおけるペストの猖獗をからませてある。七つの封印が解かれるごとにこの世に災いが巻き起こり、最後の封印が解かれたあと最後の審判が始まる、というのが黙示録の寓話が物語るところだが、そこに語られたこの世の災いをペストと読み替え、この疫病によって人々が死に絶えた後、最後の審判の幕が落とされる、とするのがこの映画の発しているメッセージだ。したがって、この映画が「宗教映画」と言われることには理由がある。

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この映画を一言で定義づければあきれた恋愛ゲームということになろうか。ゲームだからプレーヤーがいて、アンパイヤもいる。この映画の場合、アンパイヤは一人の中年女であり、プレーヤーは彼女をめぐって恋敵の関係にある二人の男だ。この二人の男を、アンパイヤの女が、男たちの妻や家族ともども、自分の母親の屋敷に招待し、そこで恋愛ゲームを繰り広げるというのが、この映画のあらすじだ。あらすじと言っても、物語としてのあらすじではない。この映画には物語はない。あるのは、ゲームに特有の、人間同士の駆け引きなのである。

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イングマル・ベルイマンは、20世紀を代表する映画監督という評価が確立している。年表を見ると、第二次大戦直後から精力的に映画作りをしているが、広く知られるようになったのは、1952年公開の「不良少女モニカ(Sommaren med Monika)」である。この映画は、スウェーデンというヨーロッパの周縁部を舞台としていることや、一人の不良少女の神を恐れぬ奔放な生き方をテーマにしていることから、欧米の映画界にある種のセンセーションを巻き起こした。映画のかもし出すドライな雰囲気は、フランスのヌーヴェルヴァーグなどに大きな影響を与えもした。

少年:大島渚

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大島渚の映画「少年」は、所謂当り屋をテーマにした作品である。当り屋というのは、故意に車にぶつかって事故と見せかけ、相手から多額の金品を脅し取るというもので、1960年代までは、よく聞く話だった。映画化されたこともある。しかし、この映画「少年」が描いているのは、大人が少年に体当たりさせ、その痛みをたねにして金を脅し取るという尾籠な世界である。これは実際にあった事件で、当時の報道も大々的に取り上げた。大島はその内容を詳しく知るに及んで、これが現代(大島が生きていた1960年代の日本)の世相の一面を如実に反映したものだと感じ、是非映画化したいと思って、取り組んだということである。

極道の妻たち:五社英雄

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「極道の妻たち」シリーズは、東映やくざ映画の黄金期が終わったあとに始まった、いわば付録のようなものだが、このシリーズで岩下志麻が大女優としての名声を確固たるものにした。だからこのシリーズは、岩下志麻のために作られたと言ってよいほどである。

仁義なき戦い 頂上作戦:深作欣二

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「仁義なき戦い」シリーズの第四作目「頂上作戦」は、深作欣二の監督によるこのシリーズ最後の作品である。戦後まもなくの頃から繰り広げられてきた広島やくざの抗争が、市民社会によって糾弾され、表舞台から消滅してゆくところを描いている。そんなこともあって、この映画は、先行する作品群に比べて迫力に欠けるところがある。主人公の広能(菅原文太)は途中からいなくなってしまうし、やくざ同士の抗争も、たがが外れて筋の通ったところがない。闇雲に殺しあっているといった印象を受ける。

仁義なき戦い 代理戦争:深作欣二

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仁義なき戦いシリーズの第三作「代理戦争」は、広島のやくざ同士の対立が神戸に本拠を置く広域暴力団同士の抗争に巻き込まれ、その代理戦争の観を呈していく有様を描く。当時は米ソの冷戦時代であり、朝鮮戦争以来世界各地で米ソの代理戦争とも言うべき小競り合いが起こっていた。この映画はそれをイメージしたものである。神戸に根拠を置く二つの広域暴力団を米ソにたとえ、広島の田舎やくざが広域暴力団の傀儡となって戦いあう様を、代理戦争と言ったわけである。

仁義なき戦い 広島死闘篇:深作欣二

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仁義なき戦いシリーズ第二作「広島死闘篇」は、副題にあるとおり、広島のやくざたちの死闘を描いた作品である。菅原文太演じる呉のやくざ広能は脇役で、主役は広島のやくざたち、とりわけ北王子欣也演じる若いやくざである。この若いやくざが、広島のやくざたちの勢力争いの中で、一歯車になり、次々と暴力沙汰を繰り広げた挙句、最後は警察官に取り囲まれて、拳銃で自殺するというものである。この若いやくざと刑務所の中で知り合った広能は、蔭に日になって面倒を見てやるが、外の土地のやくざの抗争に深いかかわりを持つわけにもいかず、いわば見殺しにするというような展開になっている。やくざの世界には、義理も人情も通じない、むき出しの暴力だけが物を言う、そんなふうに思わせるところが、相変わらずこのシリーズのすごいところだ。

仁義なき戦い:深作欣二

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1973年の映画「仁義なき戦い」は、やくざ映画の通念を変えただけではなく、日本映画にとっても画期的な作品だったといえる。やくざ映画といえば、戦前からの伝統にたった仁侠映画がそれまでの主流であり、それは高倉健を主役に立てた諸リーズでも変わらなかった。義理と人情を重んじる人間同士の触れ合い、それがやくざ映画の骨格をなす要素だった。ところが「仁義なき戦い」では、そんな人間的な要素は微塵も見られない。見られるのは、ただただ暴力の爆発である。暴力自体を描くのは、それまでの日本映画にもなかったわけではなく、実際に黒澤などは、「酔いどれ天使」などのなかで、きわどい暴力を描いてもいたが、それらの暴力には、どこかで暴力の理屈のようなものがあった。ところが「仁義なき戦い」のなかで展開される暴力は、理屈もへったくれもない、ただただ暴力のための暴力といった趣を呈している。こんな映画はそれまでの日本映画にはなかった要素だ。それが画期的だというのである。

昭和残侠伝唐獅子牡丹:佐伯清

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「昭和残侠伝唐獅子牡丹」は「昭和残侠伝」シリーズの第二作であるが、筋の上では、一作目と二作目とは何の関係もない。高倉健演じる主人公の名も、映画が展開する舞台も違う。こちらは、昭和初期の地方都市宇都宮の石切場が舞台となっている。このように話の細かい要素には違いがあるのだが、話の骨格は非常に似ている。どちらも、落ち目のやくざと新興のやくざの抗争を描いていること、新興のやくざのえげつないやり方に、落ち目のやくざのヒーローが堪忍袋の緒を切らし、単身相手の懐に乗り込んだかと思うと、超人的な能力を発揮して悪人どもを退治するという話だ。落ち目のやくざのほうには、一宿一飯の恩義を感じる客人やくざがいて、それが加勢するというのも同じだ。一つ違うのは、もっともこれは映画にとっては重大な違いなのだが、高倉健演じるヒーローが、一作目では落ち目のやくざの指導者だったのに対して、こちらの映画では客人になっていることだ。一作目で池部良の演じていた役柄を高倉健が受け持ち、その高倉健が一作目で演じていた役柄を池部良が演じているというわけだ。

昭和残侠伝:佐伯清

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「昭和残侠伝」は、「日本侠客伝」とともに高倉健主演のやくざ映画の代表的な作品である。ふたつとも、後にシリーズ化されて、いわゆる東映やくざ映画のドル箱となった。

網走番外地:石井輝男

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「網走番外地」は「日本侠客伝」及び「昭和残侠伝」と並んで、高倉健をやくざ映画のヒーローにした作品である。この映画によって網走刑務所が一躍有名になり、この刑務所を歌った映画の主題歌は、本編とそれに続くシリーズの連作の中で歌われ続け、長らく巷の流行歌ともなった。だがそれにしてはこの映画は、今から見るとあまり迫力があるとはいえない。約一時間半の上映時間のうち、前半は網走刑務所での囚人たちの生き様が、後半では刑務所を脱走した高倉健たちが北海道の雪原を逃走するシーンが描かれているのであるが、どちらもいまひとつ迫力がないのだ。

日本侠客伝:マキノ雅弘

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「日本侠客伝」は、1960年代後半に爆発的に流行したいわゆるやくざ映画のさきがけとなった作品である。高倉健主演のこの映画は、「東映やくざ」映画と称される膨大な作品群の手本となったものであり、ストーリー展開や人物設定などさまざまな面で、以降のやくざ映画に大きな影響を与えた。

少年H:降旗康男

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降旗康男の映画「少年H」は、妹尾河童の自伝的小説を映画化したものである。妹尾が小学六年生から中学生にかけての少年時代に体験した同時代の日本がテーマだ。その時代はちょうど太平洋戦争の開始から敗戦までの、戦争の時代に相当する。だから少年の目から見た戦争時代の日本を描いているということになるわけだが、その少年の時代を見る目は非常に批判的である。少年の目には、日本のやっている戦争は無謀きわまりなく、また、それに向き合っている大人たちの態度は欺瞞だらけに映る。そんなことから、作品全体から反戦のメッセージが感じられると言う具合に、少なくとも映画の作り方のうえでは、なっている。

単騎、千里を走る:張芸謀・降旗康男

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「単騎、千里を走る」は日中合作の映画である。中国側がイニシャティブをとり、日本が協力する形で作られた。中国側の監督は人気作家の張芸謀である。張芸謀は、出世作となった「紅いコーリャン」で、日本軍の残虐非道振りを描き、反日的な映画監督のように思われていたと思うのだが、それが親日的ともいえるこんな映画を作ったのは、彼の高倉健にたいする特別な思いが働いているようである。日頃高倉健の映画を愛していた彼は、是非とも高倉を主演にした映画を撮りたかった。そんなわけだから、高倉にふさわしい、格調の高い映画でなければならない。そういう思いが、張に国境を越えたヒューマンドラマを作らせたのだろうと思う。

ホタル:降旗康男

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降旗康男の映画「ホタル」は、鹿児島の知覧にあった陸軍の特攻基地を舞台にした映画である。この基地は、いまでは「知覧特攻平和会館」という形で受け継がれ、特攻で死んでいった1300人余りの若者の写真や遺品を保存している。筆者もこの会館を訪ねたことがあるが、深い感動なしに接することはできなかった。死んだ若者一人ひとりの声が聞こえてくるようであった。

鉄道員:降旗康男

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降旗康男の1999年の映画「鉄道員」は、生涯を鉄道に捧げた男の、職業へのこだわりを描いた作品である。職業にこだわる余りに、自分のプライバシーを犠牲にするような生き方は、かつての日本人に多く見られた。というより、そういう生き方のほうが人間らしい生き方として称揚されたものだ。今でも、一部の日本人には、仕事をプライバシーに優先させる人がいないでもないが、そういう生き方は少数派になってきつつある。この映画が公開された1999年というのは、仕事とプライバシーのバランスが逆転する分水嶺というべき年だったような気がする。

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スティーヴン・スピルバーグの1993年の映画「シンドラーのリスト(Schindler's List)」は、1000人以上のユダヤ人をナチスによるホロコーストから救ったあるドイツ人をテーマにした映画である。したがって映画の主人公は一応シンドラーというそのドイツ人であるし、実際映画も彼を中心にして作られているのだが、彼はナチスドイツによるユダヤ人虐待の現場におり、自分の目でつねにユダヤ人が殺されたり虐待されたりするさまを見ているということで、映画全体がナチスによるユダヤ人虐待を記録しているようなところがある。三時間十五分に及ぶ長大な作品にもかかわらず、全編が緊張感にあふれ、冗長さを全く感じさせないのは、この映画の持つ記録的な性格から来るのだろうと思う。この映画は、ドラマであると同時に、ホロコーストを記録した映画でもあるのだ。

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サム・ペキンパーの1977年の映画「戦争のはらわた(Cross of Iron)」は、第二次大戦末期のドイツ軍の退却戦を、ドイツ側の視点から描いたものである。それまで第二次世界大戦を描いた映画といえば、ドイツ軍は加害者として描かれるのが普通で、ドイツ軍の視点に立ったものはないに等しいとされていたという(当のドイツ国内でもそうだったのかどうか、事情に疎い筆者にはよくわからないが、どうもドイツにおいてもドイツ軍を英雄視する映画ははばかられていたらしい)。そんなところに、ドイツ軍寄りの視点で戦争映画が作られたというので、この映画は結構話題になったようだ。

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