ガザでジェノサイドの虐殺行為を続けるイスラエル軍が、ハマスによって人質に取られた自国民を殺害した。これについてイスラエル政府は哀悼の意を表するといっているが、いかにもしらじらしく聞こえる。ネタニヤフは先日自国民人質について、全員の命は保証できないという旨の発言をして、家族の怒りを買ったということだが、それがネタニヤフの本音なのだろう。
世界情勢を読む
岩波の雑誌「世界」の最新号(2024年1月号)が「ふたつの戦争、ひとつの世界」と題する特集を組んでいる。二つの戦争とは、ロシアとウクライナの戦争及びイスラエルとハマスの戦争のことだ。このふたつのうち後者の方に力点が置かれている。五つの記事のうち四つが後者をテーマとしている。
イスラエルを熱心に支持しているバイデン政権が、ネタニヤフ政権に戦車などの兵器を提供する決定をしたそうだ。総額で1億650万ドル=日本円でおよそ154億円相当だそうだ。この規模の外国への武器提供には、本来議会の承認が必要だが、バイデンはその手続きを踏まずに実行するという。
来年の米大統領選挙の勝利を目指しているバイデンに黄信号がともったと噂されている。アメリカのイスラム社会が、今般のイスラエルとハマスの戦いに関するバイデンの対応ぶりに大いに不満を抱き、来年の選挙ではバイデンに投票しないキャンペーンを始めたからだ。イスラムの人口は、そんなに多くはない。全米で350万程度だ。だが、大統領選挙の行方を左右する、いわゆるスウィング・ステートでは、選挙の結果を左右する力をもっている。それらの州で、イスラム系がかりに棄権すれば、バイデンはかなりな確率で敗北するだろうと予想されている。
ハマスに人質になっている者の一部が、イスラエルが拘束しているパレスチナ人と交換で釈放された。この交換は、ハマスが釈放する人質1人に対して、イスラエル側が3人の割合で釈放するという取り決めになっているようで、初回はハマスが釈放するイスラエルの人質13人に対して、イスラエル側は39人を釈放した。ところが、ハマスはそれに加え、10人のタイ人(他にフィリピン人1)を釈放した。これは、交換の枠組とは別途、ハマス側の一方的な措置である。ということは、タイ人の人質は、交換の枠組にそもそも入れられていないということだろう。タイ人をイスラエルが交換の枠組に含めないということは、タイ人を人間として見做していないということを物語っているのではないか。
スウェーデンのクリステション首相の発言が波紋を呼んでいる。国内の集会で、イスラエルとハマスの対立に触れたさい、イスラエルの攻撃に関して、イスラエルにはジェノサイドの権利があるというふうに受け取られたためである。スウェーデン政府はこれを誤認だとして火消しにやっきになっているようだが、どうもそう単純なことではないらしい。クリステション首相の発言は、イスラエルには Volkmord (ジェノサイド)の権利があるというものだったらしいが、これは言い間違いで、首相はイスラエルには自衛権があると言いたかったのだとスウェーデン政府は言いたいらしい.。だが、かりにその通りだとしても、クリステション首相の発言には問題があるといわねばならない。
ドイツ政府の内務大臣が、国内のイスラム教徒に対して、ハマスの越境攻撃を明確に非難し、イスラエルへの連帯を表明するよう求めたそうだ。これは事実上強制的なものといえるようだ。なにしろドイツ政府が名指しで求めていることだ。それに応えないとどんなことになるか。ドイツ国内のイスラム教徒は不安におびえていることだろう。
バイデン政権が、ウクライナ戦争中民間人を殺害した軍人を、制裁リストに加えたそうだ。ブチャの虐殺者と呼ばれる軍人二人とその直系の家族が対象だそうだ。一方、イスラエルがガザで行っている虐殺行為に関しては、いまのところ制裁の議論はなく、かえってイスラエル政府を支援する姿勢を示している。イスラエル政府を支援するということは、イスラエルがガザで行っている虐殺を支持するということに他ならない。
トルコのエルドアン大統領が、今回のイスラエルとハマスの衝突に関連して、イスラエルによるガザの民間人殺害を批判して、イスラエルをテロ国家と呼んだ。それに対してイスラエルは当然反発し、エルドアンを反ユダヤ主義者といって非難した。そう言われてもエルドアンはひるまない。自分は別に反ユダヤ主義にもとづいてイスラエルを批判しているわけではない。イスラエル国家が現実に行っている行為を取り上げて、イスラエルをテロ国家と呼んでいるのだと反論した。
イスラエルのユダヤ人とガザのパレスチナ人の対立激化に対して、バイデンは一貫してイスラエルを支持してきた。その理由は、イスラエルには自衛権があるというものだ。バイデンによれば、ガザを実効支配するハマスはテロリストであり、イスラエルにはそのテロリストから自国を防衛する権利がある。だから、イスラエルのユダヤ人がガザのパレスチナ人を殺すことは問題ないという見地に立っているようである。
10月7日のハマスによるイスラエル攻撃に対する報復だとして、イスラエルのユダヤ人政府がガザに対する攻撃を激化させている。今日(11月2日)の時点で殺されたパレスチナ人は8500人以上に達し、その大部分は女性と子供であるという。イスラエルのネタニヤフ政権は、人道的停戦を訴える国際世論に耳を貸さず、ハマスを根絶やしにすると言っている。かれにとってはガザの人間はすべてハマスに見えるようだから、ガザに住む200万人のパレスチナ人を根絶やしにする、つまり皆殺しにするつもりらしい。
2023年7月、オランダ国王が奴隷制と奴隷貿易について公式に謝罪したそうだ。水島治郎によれば(「世界」2023年11月号所収論文「自由と寛容をめぐるせめぎあい」)、オランダは南米にスリナム植民地を領有し、19世紀半ばまで大量の奴隷をアフリカから連れてきて使役した。他の国が相次いで奴隷制を廃止する動きを見せても、オランダは最後まで奴隷制の維持にこだわった。実際に奴隷制を廃止したのは1873年のことだ。
先日行われたG20では、主催国のインドが巧妙な会議運営を行い、G20の団結を強化したとして、日本を含むG7諸国は、インドの首相モディに絶賛の拍手を贈った。日本のメディアも、岸田政権に追随してインドのモディ首相を褒めている。そういう風潮に異議を唱え、今回のモディ首相の会議運営を厳しく批判する者がいる。雑誌「世界」の最新号に「ヒンドゥー国家に呑まれたG20」という小文を寄せた中溝和也である。
ゼレンスキーがカナダ議会に招かれて演説をしたさい、議員以外に招待された男がかつてナチスの戦闘員だったことが判明し、議長が辞任する騒ぎになった。その男はウクライナ出身で、先の大戦中ロシアと闘ったことを自慢したのであったが、じつはナチスの協力者で、SSの部隊に所属していたことがわかった。事実を指摘したのは、カナダのユダヤ人団体である。それを指摘されたカナダ政府は、トルードー首相みずから謝罪したほか、その男を招待した議長も辞任した。
アメリカがウクライナへの軍事援助の名目でクラスター弾を供与し、ウクライナ軍がそれを使って対ロシア攻撃を強めている。ウクライナとロシアは戦争状態にあるので、互いに攻撃しあうのは理にかなったことであり、また、アメリカがウクライナの事実上の同盟国として、軍事援助をすることも不自然ではない。だが問題は、クラスター弾の供与を、アメリカが合理化できるのか、またそのクラスター弾をウクライナが使用することに義はあるのかということだ。
アメリカ議会下院が、「イスラエルはレイシスト国家でもアパルトヘイト国家でもない」と題する特別決議を圧倒的な多数で可決したそうだ。これはアメリカを訪問中のヘルツォグ大統領を意識してなされたものだ。というのも、下院議員であるプラミラ・ジャヤパルがイスラエルをレイシスト国家として批判したことに対して、それは下院の大部分とは全く関係のない意見であり、下院全体としては、イスラエルをレイシスト国家でもアパルトヘイト国家でもないということを、強調したかったからだ。ジャヤパル自身はパレスティナ系であり、イスラエルを支持しているアメリカ下院では、全くの異分子なのだとも言いたいようである。
ミャンマー情勢については、日本のメディアはあまり伝えないので、詳しいことはわからなかった。それでも2021年2月に軍がクーデターを起こして以来混乱状態に陥り、軍も全国を掌握できず、反軍勢力も軍政を倒す勢いを持たないで、ずるずると膠着状態になるのかなと思っていた。そんなミャンマーに希望を持っている人がいる。ミャンマーで長年民主化運動にかかわってきたキンオーンマー女史だ。雑誌「世界」の最新号(2023年8月号」に掲載されたインタビュー記事のなかで、その希望を語っている。「ミャンマーの将来について、今ほど希望を感じたことはない」と題したそのインタビューの中で、女史は遠くない将来にミャンマーが民主化され、国際社会に復帰できる見込みを語っているのである。
G7広島サミットは、被爆地の広島で行われたことで、核の廃絶に向けた重要なモメントとなることが期待された。しかしその成果といえる広島ビジョンを読むと、核の廃絶とは正反対の、核の抑止力を引き続き容認するような内容になっている。これに対して広島の被爆関係者をはじめ、多くの人々から批判が出ている。雑誌世界の最新号(2023年7月号)に寄せられた「G7首脳は広島で何を失ったか」(太田昌克)と題する論考は、そうした批判を代表するものだろう。
小川和男は、ソ連時代から日ロ友好にかかわってきた実務家だそうで、その立場からソ連崩壊後のロシアの事情を主として経済面に焦点を当てて解説したのが、岩波新書に入っているこの本「ロシア経済事情」である。刊行したのは1998年11月であり、その年の夏ごろまでをカバーしている。要するにソ連崩壊から1998年夏ごろまでの、ロシアの経済変動を対象としているわけである。
最近「グローバルサウス」という言葉が注目を浴びている。それにはウクライナ戦争の影が指摘できる。ウクライナ戦争が大きなきっかけとなって、G7諸国と中ロの対立が前景化し、その対立にグローバルサウスを巻き込もうとする動きが、とくにG7側から強まった。主な標的になっているのはインドである。G7諸国は、今年のG7サミットにインドのモディ首相を招き、インドをG7側に抱き込もうとはかった。それに対してインドは、対立する双方の間にたって、自国の利益のために利口に振舞っている。そんな光景が見られる。そんなグローバル・サウスの戦略的意義とでもいうべきものに言及した小論が、雑誌「世界」の最新号にのっている。「グローバルサウスと人間の安全保障」(峯陽一)と題する一文だ。
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