世界情勢を読む

ゼレンスキーがカナダ議会に招かれて演説をしたさい、議員以外に招待された男がかつてナチスの戦闘員だったことが判明し、議長が辞任する騒ぎになった。その男はウクライナ出身で、先の大戦中ロシアと闘ったことを自慢したのであったが、じつはナチスの協力者で、SSの部隊に所属していたことがわかった。事実を指摘したのは、カナダのユダヤ人団体である。それを指摘されたカナダ政府は、トルードー首相みずから謝罪したほか、その男を招待した議長も辞任した。

アメリカがウクライナへの軍事援助の名目でクラスター弾を供与し、ウクライナ軍がそれを使って対ロシア攻撃を強めている。ウクライナとロシアは戦争状態にあるので、互いに攻撃しあうのは理にかなったことであり、また、アメリカがウクライナの事実上の同盟国として、軍事援助をすることも不自然ではない。だが問題は、クラスター弾の供与を、アメリカが合理化できるのか、またそのクラスター弾をウクライナが使用することに義はあるのかということだ。

アメリカ議会下院が、「イスラエルはレイシスト国家でもアパルトヘイト国家でもない」と題する特別決議を圧倒的な多数で可決したそうだ。これはアメリカを訪問中のヘルツォグ大統領を意識してなされたものだ。というのも、下院議員であるプラミラ・ジャヤパルがイスラエルをレイシスト国家として批判したことに対して、それは下院の大部分とは全く関係のない意見であり、下院全体としては、イスラエルをレイシスト国家でもアパルトヘイト国家でもないということを、強調したかったからだ。ジャヤパル自身はパレスティナ系であり、イスラエルを支持しているアメリカ下院では、全くの異分子なのだとも言いたいようである。

ミャンマー情勢については、日本のメディアはあまり伝えないので、詳しいことはわからなかった。それでも2021年2月に軍がクーデターを起こして以来混乱状態に陥り、軍も全国を掌握できず、反軍勢力も軍政を倒す勢いを持たないで、ずるずると膠着状態になるのかなと思っていた。そんなミャンマーに希望を持っている人がいる。ミャンマーで長年民主化運動にかかわってきたキンオーンマー女史だ。雑誌「世界」の最新号(2023年8月号」に掲載されたインタビュー記事のなかで、その希望を語っている。「ミャンマーの将来について、今ほど希望を感じたことはない」と題したそのインタビューの中で、女史は遠くない将来にミャンマーが民主化され、国際社会に復帰できる見込みを語っているのである。

G7広島サミットは、被爆地の広島で行われたことで、核の廃絶に向けた重要なモメントとなることが期待された。しかしその成果といえる広島ビジョンを読むと、核の廃絶とは正反対の、核の抑止力を引き続き容認するような内容になっている。これに対して広島の被爆関係者をはじめ、多くの人々から批判が出ている。雑誌世界の最新号(2023年7月号)に寄せられた「G7首脳は広島で何を失ったか」(太田昌克)と題する論考は、そうした批判を代表するものだろう。

小川和男は、ソ連時代から日ロ友好にかかわってきた実務家だそうで、その立場からソ連崩壊後のロシアの事情を主として経済面に焦点を当てて解説したのが、岩波新書に入っているこの本「ロシア経済事情」である。刊行したのは1998年11月であり、その年の夏ごろまでをカバーしている。要するにソ連崩壊から1998年夏ごろまでの、ロシアの経済変動を対象としているわけである。

最近「グローバルサウス」という言葉が注目を浴びている。それにはウクライナ戦争の影が指摘できる。ウクライナ戦争が大きなきっかけとなって、G7諸国と中ロの対立が前景化し、その対立にグローバルサウスを巻き込もうとする動きが、とくにG7側から強まった。主な標的になっているのはインドである。G7諸国は、今年のG7サミットにインドのモディ首相を招き、インドをG7側に抱き込もうとはかった。それに対してインドは、対立する双方の間にたって、自国の利益のために利口に振舞っている。そんな光景が見られる。そんなグローバル・サウスの戦略的意義とでもいうべきものに言及した小論が、雑誌「世界」の最新号にのっている。「グローバルサウスと人間の安全保障」(峯陽一)と題する一文だ。

このところ、米巨大企業の幹部が中国との緊密なパイプ作りに動き出している。モルガン・チェースのCEOジェームズ・ダイモンが中国を訪問し投資銀行の対中進出に意欲を示したのをはじめ、マイクロソフトの創業者ビル・ゲイツやテスラの創業者イーロン・マスクが相次いで中国を訪問し、対中ビジネスの拡大に意欲を示した。バイデン政府が中国封じ込め路線を追求しているなかで、こうした動きはバイデンをパスして、直接自分自身の利益を追求しようというもので、それ自体は資本の論理にかなっている。資本主義国アメリカでは、こうした個別資本の動きを、政府の都合ではとめられないと見える。正式に戦争状態にあるのならともかく、いくら政府の方針に反するからといって、資本の動きを一方的に制約するのはむつかしいのだろう。

対話型AIサービスChatGPTが大変な騒ぎを引き起こしている。あっという間に億単位のユーザーを獲得したことに、騒ぎのすごさを感じることができる。その騒ぎを前にして、このサービスが人間に明るい未来を拓くものだとする肯定的な評価がある一方、逆に人間に害を及ぼす危険を指摘する否定的な評価もある。欧米諸国では、これを警戒する空気の方が優勢で、早くも法的な規制についての議論が高まっているのに対して、日本では、積極的に活用すべきだという雰囲気の方が優勢である。日本はこの分野では後進国で、問題点をあげつらうよりは活用する方が先だとする考えのほうが優勢なのだ。この問題について、岩波の雑誌「世界」の最新号(2023年7月号)が、「狂騒のChatGPT」という特集を組んでいるので、そこに寄せられた文章を読めば、問題の所在についてのおおまかな傾向を知ることができる。

岩波の雑誌「世界」の最新号(2,023年7月号)が「交錯する人権と外交」という特集を組んでいる。これはウクライナ戦争に関して、日本を含めた「西側」の諸国が、ウクライナに加担してロシアと対立することの大義名分として、人権とか法の支配といった「普遍的価値」を持ち出してることについての、違和感というべきものをテーマとしたもので、寄せられた数編の小文は、いづれもそうした西側の主張への批判を表に出している。

今回のG7は日本の岸田首相が議長を務めたということもあって、岸田首相の人格を感じさせるものとなったのではないか。岸田首相には、核なき世界と言いながら、実際には核抑止を信じているというような、分裂した言動が指摘されるのであるが、今回はそうした岸田首相に呼応するかのように、支離滅裂な会議になったというのが小生の受けた印象である。

藤原帰一は国際政治学の視点から、現代社会について考察し、様々な媒体を通じて意見を発信しているようだ。岩波の雑誌「世界」に連載している「壊れる世界」もそうした発信の一つであり、小生は毎号読んでいる。最新号(2023年6月号)では、「戦争とナショナリズム」と題して、21世紀になって大規模戦争の可能性が無視できなくなり、それをナショナリズムが支えているという分析をしているのだが、その中で一つ、ウクライナ戦争の終わらせ方をめぐって藤原の提示するオプションにたいへん興味を覚えた。

先日ドイツ政府の高官がロシアをナチ呼ばわりするということがあった。西側の全面的なロシア憎悪に悪乗りしたのだと思うが、こういう言説をきかされると、語るに落ちた妄言と感じざるをえない。かつてかれらの祖先がソ連に戦争を仕掛け、2600万にのぼるロシア人を殺したのは厳然とした歴史的事実だ。そのナチスドイツの子孫が、自分たちの祖先が殺しつくしたロシア人を相手に、ナチ呼ばわりするというのは、ブラックジョークにもなるまい。だが、一日本人として、そうとばかりも言っていられない。今の日本人も同じようなことをしているからだ。今の日本人は、かつて自分たちの祖先が侵略した中国を、全体主義国家だとかなんとか理屈をつけて、公然と敵視し、あわよくば新たな戦争を仕掛けかねない勢いである。

前米大統領ドナルド・トランプがニューヨーク検察によって起訴された。容疑はとりあえず、元ポルノ女優ストーミー・ダニエルスとのセックス・スキャンダルにからむものだが、トランプにはそのほか重大な犯罪容疑がいつくか取り沙汰されており、今後の展開によっては複数の容疑で訴追される可能性が高い。

stormy.jpg

先日元米国大統領ドナルド・トランプが、3月22日にニューヨークの検察官に逮捕されるといって、支持者に反撃するようにと、自分の運営するソーシャルネットワーキングサービス「トルース・ソーシャル」に投稿したことで、ストーミー・ダニエルスとの間におこっていた数年来のスキャンダルに、あらためて脚光があたった。これは周知のことなので、ここでは詳しく触れないが、何といっても、一介のポルノ女優だった女性が、米国の大統領を苦境に追い込んだというので、彼女の勇気をたたえる言説があちこちに出始めている。これまで彼女は、罵倒されることはあっても、褒められることはなかった。それは、アメリカの男性優位の価値観を、彼女が覆しつつあるという画期的な事態の重みを、さすがに頑迷なアメリカのジャーナリズムも無視できなくなったということだろう。

国際刑事裁判所なるものが、ロシアの大統領プーチンを、戦争犯罪容疑で国際指名手配したそうだ。小生も、プーチンは裁かれるに値することをやっていると考えるので、かれを訴追する動きに異議はない。だが、いまの国際情勢を踏まえれば、この訴追には象徴的な意味しかなく、プーチンが現実に裁かれる可能性はほとんどないと言われている。それでもプーチンを裁こうとするのは、世界の指導者に対する警告の意味合いがあるからだという。プーチンと同じようなことをすれば、誰でも、たとえアメリカ合衆国の大統領であっても、訴追される危険があることを知らしめることで、抑制的な効果を期待するというのである。

中国がウクライナ戦争について、ロシアとウクライナの仲介役を買って出、停戦案を提示したところ、NATOは消極的な反応を見せている。中国は事実上ロシアの同盟国で、中立的な立場ではないから、信用できないというのが表向きの理由だが、それとは別に、もっと深い事情があるようだ、その事情を理解するためのとっかかりを、ある文章が提供してくれる。ネット・オピニオン誌POLITICOに掲載された "Here's How Ukraine Could Retake Crimea By Cacey Michel" という文章である。

国連安保理が、イスラエルによるパレスチナ占領地への入植拡大を批判する決議をした。イスラエルはこれに異議を唱え、アメリカがそれに同調したことを非難したと伝えられる。だが実際には、そんなに単純なものではないようだ。これについては、イスラエルも一定の理解を示し、それをアメリカが確認したので、安心して同調したということらしい。アメリカとしては、イスラエルとの緊密な関係を踏まえ、イスラエルが強く反発する決議案には今まで拒否権を行使してきており、今回も、もしイスラエルが強く反発するなら、拒否権を行使するはずだった。それが、しなかったのは、国際的な背景が働いているためだ。

先日、雑誌「世界」最新号(2013年3月号)のウクライナ戦争特集を批評した中で、岡真理の「人権の彼岸から世界を見る」についても触れておいたが、この小論はなかなか考えさせるものがあるので、別途取り上げて論評してみる気になった。

雑誌「世界」の最新号(2023年3月号)が、「世界史の試練ウクライナ戦争」と銘打って、ウクライナ戦争を特集している。「世界」は過去二度ウクライナ戦争を特集した。戦争が始まった直後と、それにすぐ続く臨時増刊号(「ウクライナ侵略戦争ー世界秩序の危機」と銘うつ)だ。最初の特集では、ロシアがウクライナに侵攻したことに、一定の理解を示すような論説もあったが、臨時増刊以降は、ロシアによるウクライナ侵攻を、明確に侵略戦争と定義し、ロシアを批判する内容の記事が紙面を埋めるようになった。三回目の今回の特集では、ロシアへの批判を基本としながら、なぜロシアが戦争に訴えたか、それを考えさせる記事も含まれている。

Previous 1  2  3  4  5  6  7  8  9  10  11



最近のコメント

  • √6意味知ってると舌安泰: 続きを読む
  • 操作(フラクタル)自然数 : ≪…円環的時間 直線 続きを読む
  • ヒフミヨは天岩戸の祝詞かな: ≪…アプリオリな総合 続きを読む
  • [セフィーロート」マンダラ: ≪…金剛界曼荼羅図… 続きを読む
  • 「セフィーロート」マンダラ: ≪…直線的な時間…≫ 続きを読む
  • ヒフミヨは天岩戸の祝詞かな: ≪…近親婚…≫の話は 続きを読む
  • 存在量化創発摂動方程式: ≪…五蘊とは、色・受 続きを読む
  • ヒフミヨは天岩戸の祝詞かな: ≪…性のみならず情を 続きを読む
  • レンマ学(メタ数学): ≪…カッバーラー…≫ 続きを読む
  • ヒフミヨは天岩戸の祝詞かな: ≪…数字の基本である 続きを読む

アーカイブ